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しおりを挟む実家に戻ったカティアナは、両親と姉夫婦に侯爵家の侍女をクビになったと話した。
「ちょっと待って?侍女ではなく侯爵夫人になるんじゃなかったの?」
カティアナはディケイドの求婚を受けたことを両親に手紙で伝えていた。
侯爵が領地から戻った後、正式に手続きをすることになるから心の準備をしてもらおうと思ったのだ。
「あの人はね、私を信じてくれなかったのよ。」
カティアナは、オルビスが嘘をついて侯爵がそれを信じたことを話した。
リイサがバーバラ夫人を頼ったことも、おそらくジェシカを後妻にするためにサンダース伯爵家が金を出したであろうことも、全部。
「そこまでわかっているのに、いいのか?冷静になって話せば侯爵もお前を疑ったことを反省するだろう。お前と再婚してしまえば、サンダース伯爵家も諦めると思うが。」
父の言葉を否定したのは姉だった。
「甘いわ、お父様。実際にお金は動いたのだから、諦めるわけがないわ。カティアナの身が危険になるかもしれない。」
侯爵に再婚の意思があると知り、もうこれ以上の相手はジェシカにはいないのだから。
26歳になる年齢で初産はギリギリなので産まないかもしれないが、”侯爵夫人”という肩書は非常に魅力的なものである。
カティアナのように働くわけでもなく、結婚もせずに実家にいるジェシカのような令嬢は、”結婚できなかった”ことになる。
実家に力があろうとも、社交界の陰口を黙らせることはできず、ジェシカが表舞台から姿を消すことになるのも時間の問題なのだから。
カティアナは口を開いた。
「私ね、多分、妊娠しているの。」
両親と姉夫婦は非常に驚いた。
「それなら、なおさら……」
そう言う父に、カティアナは首を横に振った。
「この子に危険が及ぶかもしれないわ。それに、あの人のこと、どうでもよくなっちゃったの。」
元妻が長年浮気をしていたことは、ディケイド本人が話してくれた。
それもあってカティアナが二股をしていたと聞き、許せなかったのだろう。
だが、否定したカティアナの話を聞かなかったことで、カティアナの中に小さく咲いていた彼への思いは枯れてしまった。
そもそも、カティアナはディケイドに好意があったわけでも侯爵夫人になりたかったわけでもない。
彼からの熱視線に気づいた時、避けようと思ったほどだ。
わりと気の強いカティアナは、社交界の本音を隠したような女の争いが好きではない。
結婚もどうでもいいと思い、働き始めたのだから。
それでも、不器用に、でも必死に思いを告げてくれるディケイドに絆された。
領地に行っている間にカティアナが逃げたら立ち直れない、と体を求められた時も受け入れた。
領地から無事に帰ってきたディケイドの笑顔にホッとして『あぁ、家族になるのね』と嬉しく思った直後に、出て行けと言われた。
カティアナが純潔だったことを喜んだくせに、あんな嘘を真に受けるなんて。
「誰かと話すたびに浮気を疑われるのは嫌だし、後妻の座を奪おうと危害を加えられることを恐れるのも嫌。だから、侯爵家に戻りたいとは思わないの。」
「だが、子供がいると知れば侯爵に奪われるかもしれないぞ?」
「だから、知られる前に逃げるわ。」
「どこに?」
「イーリスが嫁いだ東の辺境、タッシュ領に。」
イーリスはカティアナの友人で家族もよく知っている。
王都から遠く離れたあの地なら、カティアナと子供が紛れて住んでいても気づかれない。
イーリスに頼めば、子連れでもできる仕事も紹介してくれるはずだから。
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