5 / 30
5.
エステルは、アイザックとメイディアを同時に呼び出した。
「あなたたちにお願いがあるの。」
「お願い?」
「ええ。あなたたち、結婚してくれないかしら?」
エステルの発言に、アイザックとメイディアは目を丸くして驚いていた。
この日から十四日後、エステルは永眠した。
まだ若いエステルの死を哀しむように、多くの貴族が葬儀に参列した。
「産後の肥立ちが悪かったのね。」
「子供を残して心残りでしょうに。」
「アイザック様もまだお若いわ。」
似たような言葉があちらこちらから聞こえていた。
そういう会話は遺族に聞こえない場所でしてほしい。
そう思いながら、アイザックは参列者を見送った。
残ったのはアイザックと両親であるデズモンド侯爵夫妻、エステルの家族であるアドレー伯爵と兄ケント、そして妹デボラ。
少し離れたところにメイディアと兄ローランド、そして父ウェルシス子爵がいた。
デズモンド侯爵夫妻とアドレー伯爵が話をしている時、ひときわ大きな声でデボラが言った。
「アイザックお義兄様!いえ、アイザック様、私が姉の場所を引き継ぎます。いいでしょ?」
「……どういう意味かな?」
「もう~わかるでしょ?アイザック様の妻になるって言ってるんです。あ、卒業まで待ってくださいね。」
「いや、待つ気なんてないよ。」
「えっ今すぐ?困っちゃうなぁ~いいですけど?」
アイザックはデボラの発言に呆れるしかなかった。
「そういう意味ではない。君を妻にする気などないという意味だ。」
「でも、ルイスの母親には私がピッタリでしょ?叔母なんだもの。継母虐めなんてしないわ。他の令嬢だと、ルイスがひどい目にあっちゃうかも。だから、ね?私がいいと思わない?」
「……君は姉の葬儀を終えたばかりだというのに、なんとも思わないのか?」
「え……?だって、私を捨てて結婚を選んだのはお姉様だもの。自業自得じゃない?」
デボラの発言に、全員の目が”何を言っているんだ?”という風に彼女を見た。
「デボラ、お前は頭がおかしいのか?帰るぞ。」
そう言ったのは、デボラの兄ケントだった。
「嫌よ。ね、アイザック様、私と婚約しましょ?これからたくさん、再婚話が来るわ。その前に、ね?」
アイザックは深くため息をついた。
「断る。……私は、結婚している。」
「お姉様は死んだわ。」
「エステルとは離婚していた。私は別の女性と今は再婚しているんだ。」
「え……?なにそれ。どういうこと?」
「そのままだ。エステルは死ぬ前に自分が選んだ女性にルイスの母親になってもらいたいと言って、私に離婚を迫った。最期の願いだから、と。」
「そんなバカな話、ある?そんな嘘をつくなんて。お父様、ひどいと思わない?」
デボラは父親が腹を立てているはずだと思い父を見たが、アドレー伯爵は怒っていなかった。
「デボラ、私はバカな話だとは思わない。現に、お前のような再婚を迫る女性を見越していたエステルをさすがだと褒めてやりたいよ。」
アドレー伯爵は、優しく賢いエステルを死なせてしまったと悔いる思いだった。
あなたにおすすめの小説
次代の希望 愛されなかった王太子妃の愛
Rj
恋愛
王子様と出会い結婚したグレイス侯爵令嬢はおとぎ話のように「幸せにくらしましたとさ」という結末を迎えられなかった。愛し合っていると思っていたアーサー王太子から結婚式の二日前に愛していないといわれ、表向きは仲睦まじい王太子夫妻だったがアーサーにはグレイス以外に愛する人がいた。次代の希望とよばれた王太子妃の物語。
全十二話。(全十一話で投稿したものに一話加えました。2/6変更)
幼馴染が最優先な婚約者など、私の人生には不要です。
たると
恋愛
シュタイン伯爵家の長女エルゼは、公爵子息フィリップに恋をしていた。
彼の婚約者として選ばれた時は涙を流して喜んだが、その喜びもいまは遠い。
『君は一人でも大丈夫だろう。この埋め合わせは必ずする。愛している』
「……『愛している』、ですか」
いつも幼馴染を優先するアルベルトに、恋心はすっかり冷めてしまった。
嘘をありがとう
七辻ゆゆ
恋愛
「まあ、なんて図々しいのでしょう」
おっとりとしていたはずの妻は、辛辣に言った。
「要するにあなた、貴族でいるために政略結婚はする。けれど女とは別れられない、ということですのね?」
妻は言う。女と別れなくてもいい、仕事と嘘をついて会いに行ってもいい。けれど。
「必ず私のところに帰ってきて、子どもをつくり、よい夫、よい父として振る舞いなさい。神に嘘をついたのだから、覚悟を決めて、その嘘を突き通しなさいませ」
学生のうちは自由恋愛を楽しもうと彼は言った
mios
恋愛
学園を卒業したらすぐに、私は婚約者と結婚することになる。
学生の間にすることはたくさんありますのに、あろうことか、自由恋愛を楽しみたい?
良いですわ。学生のうち、と仰らなくても、今後ずっと自由にして下さって良いのですわよ。
9話で完結
必要とされなくても、私はここにいます
あう
恋愛
辺境公爵カーネル・クリスのもとへ嫁ぐことになったフィレ・バーナード。
けれど彼女は、理想の妻になろうとも、誰かの上に立とうともしなかった。
口出ししない。
判断を奪わない。
必要以上に関わらない。
ただ静かに、そこにいるだけ。
そんな彼女の在り方は、少しずつ屋敷の空気を変えていく。
張りつめていた人々の距離はやわらぎ、日々の営みは穏やかに整いはじめる。
何かを勝ち取る物語ではない。
誰かを打ち負かす物語でもない。
それでも確かに、彼女がいることで守られていくものがある。
これは、
声高に愛を叫ばなくても伝わる想いと、
何も奪わないからこそ育っていく信頼を描く、
静かでやさしい結婚生活の物語。
騎士の妻ではいられない
Rj
恋愛
騎士の娘として育ったリンダは騎士とは結婚しないと決めていた。しかし幼馴染みで騎士のイーサンと結婚したリンダ。結婚した日に新郎は非常召集され、新婦のリンダは結婚を祝う宴に一人残された。二年目の結婚記念日に戻らない夫を待つリンダはもう騎士の妻ではいられないと心を決める。
全23話。
2024/1/29 全体的な加筆修正をしました。話の内容に変わりはありません。
イーサンが主人公の続編『騎士の妻でいてほしい 』(https://www.alphapolis.co.jp/novel/96163257/36727666)があります。
幼馴染しか見えない婚約者と白い結婚したので、夜明け前にさよならしました
ゆぷしろん
恋愛
公爵令嬢レティシアは、家同士の都合で伯爵アルフレッドに嫁ぐ。
けれど夫は結婚後もずっと幼馴染のシルヴィばかりを優先し、婚礼の夜から夫婦として触れ合おうともしなかった。名ばかりの妻として伯爵家を支え、領地経営まで立て直しても、彼にとってレティシアは“都合のいい伯爵夫人”でしかない。
やがて結婚一周年の夜、アルフレッドが自分を手放す気はない一方で、幼馴染を屋敷に迎え入れようとしている会話を聞いてしまったレティシアは、ついに決意する。
――もう、この結婚には見切りをつけよう。
夜明け前、彼女は離縁の準備を整え、伯爵邸を出奔。
身を寄せた北の港町で薬舗を手伝いながら、自分の力で生きる穏やかな日々を手に入れていく。そこで出会ったのは、身分ではなく一人の女性として彼女を尊重してくれる青年医師ノアだった。
一方、都合よく尽くしてくれる妻を失ったアルフレッドは、ようやく自分が何を失ったのかを思い知ることになる。
幼馴染ばかりを優先する婚約者との白い結婚に終止符を打ち、傷ついた公爵令嬢が新天地で本当の幸せを掴む、離縁から始まる逆転ラブストーリー。