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しおりを挟むエステルの父であるアドレー伯爵は、エステルの最期の手紙を読み呆然と涙を流した。
愛する妻とお腹の子を殺したのが、デボラ?
嫁いだ長女エステルを殺したのも、デボラ?
妻が亡くなった時、デボラはまだ6歳だった。
善悪の判断がついている歳と断定するには微妙だろう。
当時、末っ子だったということもあり、デボラは家族から可愛がられていた。
特に母親にはベッタリで、予定外に四人目を妊娠した妻が悪阻で苦しみ始めて、母親から遠ざけられたデボラの癇癪はひどかった。
『お母様なんて、大っ嫌い!もう要らない!!』と言われ、妻は哀しんでいた。
『デボラが一番じゃないなら、お母様もお腹の子もいなくなっちゃえばいい!』と言われ、誰が一番だとか考えたこともないし決める気もないと、妻は泣いていた。
ケントやエステルにもデボラが一番だと思われていたかもしれない、と。
二人は年齢的なこともあり、デボラに手がかかるのは当然だと気にもしていなかったが。
あの時に、乳母のローザがデボラに囁いたのか。
『不要になった母と腹の子を消してあげましょうか?』と。
単純なデボラなら頷いただろう。
そうして、妻は毒を飲まされて苦しみながら死んだのだ。
実際に母親がいなくなって、デボラはどう思っただろうか。
ローザはおそらく、私たちの名を出したのだろう。
『母親から貰えなくなった愛情を、父親と兄姉から貰うために今まで以上に構ってもらえばいい』と。
そうしてデボラは私たちに我が儘を言い、甘え、言うことを聞かせるように仕向けていった。
それも全部、ローザの指示だろう。
デボラは愛情を試しているのだと思ったこともあった。
だが、叱るとすぐにデボラは食事をとらなくなる。
『私も死んだ方がいいの』と言って。
それを繰り返し、私たちはどうしてもデボラに甘くなってしまったのだ。
一番、デボラの面倒を見てきたのは、エステルだ。
私には言えないこともあっただろう。
文面からは、多くのものを奪われていたようだ。
姉のものが良いように思えて欲しかったのか。
あるいは、姉が叱らないのを見越した確信犯か。
いずれにせよ、もう成長したデボラが自らの意思でエステルの死を願ったのだったらデボラの罪は重い。
「父上っ!エステルが亡くなったと……」
ノックと共に扉を開けて、長男ケントが入ってきた。
私は涙を拭うことなくケントを見据え、エステルの手紙を渡して読ませた。
「デボラ……なんてことを。あの子は異常だ。」
異常。そうだな。
ローザと引き離したところで、今更正常には戻らないのではないか。
しかも、サリーもデボラのそばに戻っている。
「ローザやサリーは我々が気付いたと悟られる前に捕らえる。デボラには何も言わない。」
「何も言わないって、父上はエステルではなくデボラを信じるのですか?」
「いや、そうではない。手紙にあるように葬儀でのデボラの振る舞いを見て納得したい。その上で、卒業するまで待つか、今すぐ幽閉するかを考えたい。」
「つまり、どのみちデボラは幽閉すると?」
「幽閉、エステルはそう願っているが……お前、デボラの評判が悪いと知っていたか?」
「なんとなくは。エステルから嫁ぐ前に、お茶会や夜会の招待状をデボラに見せないように言われたことがあります。デボラはマナーが悪いとかでもう一度学び直させてほしいって。婚約者のいる男に気軽に触れるので女性から反感を買っているとも言っていました。」
結婚前までは、エステルがその対処をしてきたのだろう。
「病、あるいは大怪我としてデボラは早めに閉じ込めた方がよさそうだな。表に出すのが怖い。」
「正直、僕もそう思います。僕はデボラよりもアドレー伯爵家を選ぶ。」
ケントの言葉に、私も頷いた。
領地領民を守らなければならない。
デボラのせいで、苦境に立つわけにはいかないのだ。
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