いくつもの、最期の願い

しゃーりん

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アドレー伯爵家に戻り、デボラはひとまず部屋のベッドに寝かせた。 

ローザとサリーの部屋からは、隠してあった毒と思われるものが見つかっていた。
そしてケントと共に、捕らえたローザから話を聞くことにした。
 

「旦那様、私が捕らえられたのはどうしてなのですか?」

「心当たりはあるはずだ、ローザ。」


ローザの視線は目まぐるしくあちこちに動いていた。


「お前とサリーの部屋も捜索した。何を探していたか、わかるだろう?」


大切な毒を奪われたとわかったのだろう。ローザは睨んできた。 


「お前をデボラの乳母として紹介してきた貴族は仲間、一族に関係する者か?」
 

ローザは五歳のサリーを連れて、アドレー伯爵家の乳母としてやってきた。
お腹の子は死産だったらしいが、母乳は出るからと紹介されてデボラの乳母になったのだ。

男爵だった夫を亡くし、幼子を連れて行く当てがないと聞き、デボラに母乳が必要な時期を終えても追い出せなかった。

紹介してくれた貴族を信じていたので、その男爵家について調べたことはなかった。
そして、調べた結果、もう没落してないということだった。
名を騙った可能性もあり、まだ調査中である。 


「知りません。私は言われた通りにここに来ただけですから。」

「なぜ、妻を殺した?」

「デボラ様が望んだので。」


平然とローザはそう答えた。
 

「デボラが望めば何でもしたのか?」

「そうですね。可能な限りは。私たち一族は、主と決めた者に従うのです。私の乳を飲んで育ったデボラ様を主と決めましたので。」

「ではサリーの主は誰だ?エステルの侍女として一緒に行ったのに、エステルが主ではなかったのか?」
  
「サリーもデボラ様が主です。エステル様の侍女になったのはデボラ様がエステル様が嫁いだ後のことも知りたがったからです。」


エステルは自分の専属侍女を連れて嫁ぐはずだった。
しかし、その侍女が病になり侍女を辞めたので、代わりに行きたいと手を挙げたのがサリーだった。


「まさか、エステルの侍女にも毒を盛ったのか?」

「そうです。でも生きていると思いますよ。量は少なかったので。」


平然と答えるローザに、ここにも化け物がいると思った。
 

「ここに来てから毒を使ったのは、妻と侍女とエステルの三人だけか?」

「そうですね。もったいないので。私とサリーは死罪ですか?」

「当然だ。毒は調査してもらう。他にも同じ毒を持った仲間がいるんだろう?」

「誰がどこにいるかなんて知りませんよ。私も子供でしたし。
でももう、ほとんど毒は残っていないんじゃないですかね?」

「そうだとしても、解毒剤は作っておくべきだろう。」


ローザは鼻で笑った。


「なんだ?」

「あの毒が使われたと気づいた頃には解毒剤を飲ませても手遅れ。そういう毒なんですよ。」
 

目まいやだるさ、発熱。よくある症状から始まる。
体が動かしにくくなってきても、熱で寝てばかりだったからだと勘違いする。
やがて、足が棒のようになってきて、寝たきりになる。この時点で手遅れ。
関節が固まり、寝返りもうてず、そして呼吸が止まる。

二~三か月かけて、毒だと気づかれないように殺すのだ。

しかも、毒物反応は出ないため、疑われない。


そう語るローザの言葉を、私たちは呆然として聞いた。


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