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しおりを挟むアイザックとメイディアの結婚の詳細はまた後日ということになり、メイディアは退室した。
「……なかなか弁えた令嬢だな。嫁ぎ先がなかったのが不思議だ。」
「メイディア嬢は四人兄妹の一番下だそうです。姉二人は伯爵家に、兄は子爵家の跡継ぎです。」
「姉二人が伯爵家に嫁いだか。優秀だったのだろうな。だが持参金は高くなる。実家の負担にならないよう、メイディア嬢は自立する道を選んだということか。」
メイディアに対する父の印象は悪くなさそうだった。
「それにしても、エステルが可哀想だわ。お母様が亡くなった時って妹のデボラさんはまだ幼い子供でしょう?その暗殺者親子に歪められて育ってしまったのね。気の毒だとは思うけれど、今はもう幼子じゃない。
本当は罪を償うべきなのでしょうけれど、実家を守りたい気持ちもわかるわ。」
「ああ。アドレー伯爵はやりきれないだろうな。妻を亡くし娘も……しかも望んだのがもう一人の娘なのだから信じたくないだろう。」
「エステルは自分の葬儀で妹の所業を見てもらったら、伯爵は信じざるを得なくなるはずだ、と。」
「そんな愚かなことをするかしら?」
良識があれば、姉の死を悼み、慎ましくするだろう。
しかし、長年妹デボラを見てきた姉エステルとしての判断は、妹は”愚か”なのだ。
「デボラ嬢は待つのが苦手で、時と場合を考えないようですので。」
他人であれば、喪が明けもしないうちに正式な再婚話は持ち込まないが、誰かに先を越されては困るからと我先にアイザックに後妻になりたいと言える機会を逃さないというのがエステルの予想なのだ。
「我慢できない子供のようね。いえ、そうね。おそらく彼女は精神だけ子供のままなのね。」
貴族は、姉妹で一緒に過ごす時間よりも侍女と一緒に過ごす時間の方が長い。
その侍女に思考を歪められてしまえば、どうしようもない。
少し年上なだけのエステルが気づくのは難しい。
父親は執務に忙しく、接する時間は短い。
兄は性別も違うし歳も離れているので、接する時に甘やかすだけだ。
母親が生きていれば、歪みに気づけたかもしれないが。
「時が来れば、デボラ嬢は表には出してもらえないだろう。伯爵もそうするしかないとわかるはずだ。」
幽閉で手に負えなければ、精神病施設に送られるだろう。そういうことだ。
「エステルは気の毒だけど、アイザックの再婚は避けられないわ。しばらくはメイディアさんが隠れ蓑になってくれるけれど、再婚相手に希望はある?こういう女性がいい、とか嫌だとか。」
そんなことを聞かれても困る。
「父上は実益のある令嬢と先ほどおっしゃいましたが、結婚によって縁を結びたいところがあるのですか?」
「いや、そういうわけではない。”訳あり”を入れるくらいなら、先ほどのメイディア嬢の方がいいだろう。」
父のその言葉に少し勇気をもらった。
「ではメイディア嬢と再婚後、一年ほど彼女の人となりを見るのはどうでしょうか。
私はもちろん、父上と母上、そしてルイス。使用人からの評判。あとは社交界での立ち回り。
それが及第点であれば、私はメイディア嬢との結婚を続けたいと思います。」
「まあっ!あなたがそんなことを言うなんて驚いたわ。」
自分でも驚いているが、彼女は一緒にいても苦にならない女性だ。
そういう意味ではエステルもそうだったのかもしれないが。
「エステルの願いですから。それに、メイディア嬢がルイスの母になれば、アドレー伯爵とも会わせやすいという考えもあるのではないかと思いまして。」
娘が孫を連れて遊びに行く。
それができなくなったエステルの代わりに、メイディアが連れて行く。
彼女なら、そうするのではないだろうか。
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