記憶が戻ったのは婚約が解消された後でした。

しゃーりん

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あまり素行のよろしくないジルベール王太子殿下との婚約を、ダイアナが記憶喪失になったことを機に解消しようと目論見始めた父に聞いてみた。 
 

「わたくしが婚約を解消したいと言い出すことはなかったのですか?」
 

記憶喪失になった今だから、父は動こうとしているように思えた。


「ダイアナは国王陛下たちが自分に期待しているとわかっていたんだ。要は、お前がしっかりしていれば殿下が馬鹿でも問題ないと思っている。お前を逃がしたくないんだ。それがわかっているから、私たちが婚約解消を勧めても頷かなかった。」


王族相手に婚約解消を言うのは難しいのではないのかしら。


「わたくしは、王太子殿下をお慕いしていたのでしょうか。」

「それはない。」 


ジルベールが好きだから、彼のために自分が動き、他の女性がいても許していたのかと思っていたけれど、父は思いっきり否定をしてくれた。
 

「ダイアナは、素直で真っ直ぐで、とにかく前向きな子だったんだ。
おそらく国王夫妻に、殿下のことは気にせず国のために働いてほしいと言われていたのではないかと思う。そのせいで、殿下はお前を僻んでるんだろう。男爵令嬢は自分よりも馬鹿だから、自尊心が傷つかずに済むから側に置いているんだろうな。」


今でその状態なら、結婚後はただひたすら働かされるだけの人生になる。
ジルベールの子を産むのも、ダイアナではない可能性もある。
ダイアナは、まさかそこまではないと思っていたらしいが、父は有り得ない話ではないと思っていたようだ。
しかもそれは、現実味を帯びていたらしい。
 

「王太子妃になれば当然跡継ぎを産むことが望まれる。殿下がお前の夫として最低限の役割をこなすつもりでいるならば何も言うつもりはなかった。しかし、結婚前から男爵令嬢を侍らせ、殿下はお前との婚約を解消しようとしていたんだ!」

「あちらも婚約解消を望んでいらしたのに、なぜ今も婚約者なのです?」
 

絶好の機会はあったようなのに。


「お前が、お前が阻止したんだよ。」


父は項垂れるようにそう言った。


「わたくしが、阻止?」

「ああ。国王夫妻に頼まれたからと言った。」
 

三か月前のジルベールの17歳の誕生日パーティーで、彼はダイアナとの婚約を解消する気でいた。
そう宣言されるのを阻止するために、ダイアナはジルベールのグラスに下剤を入れたらしい。しかも、自分のグラスにも。
 
二人はパーティーに戻れなくなり、婚約解消どころではなくなった。


「……犯人捜しはされませんでしたの?」
 

王族に下剤を飲ませるだなんて、徹底的に捜索されていてもおかしくはないのに。 


「架空の侍女が処罰されたよ。そう国王が仕向けた。」


実際には誰も処罰されていないのね。


「わたくしが下剤を入れた犯人だとお父様はなぜご存じなのです?」

「聞いたら、自分がやったとお前は答えたよ。」

「あら。」
 

わたくしって、素直すぎて王太子妃には向かないのではないかしら。

 
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