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しおりを挟む医者がまだ来ないため、ひとまず朝食をとることになった。
屋敷の中の記憶もない。
人と、関係のある場所を憶えていないのかもしれない。
途中、母ソフィアであろう女性がダイアナを見て駆け寄ってきた。
「ダイアナ、体調はどうなの?」
どうやら母は詳しく聞いていなかったらしい。
「ダイアナ、お前の母だ。思い出せないか?」
父がダイアナにそう聞いてきた。
「申し訳ございません。わたくしと似ているのでお母様だとわかりましたが、思い出すことはありませんでした。」
ダイアナの顔は母似で、髪色と目の色は父似であるとわかった。
「ソフィア。ダイアナは記憶を失ったようだ。誰のことも覚えていない。」
「え……?記憶を?まあっ!頭を打ったの?」
母も、父と同じようにダイアナの頭を撫でまわした。
「いえ、痛むところはありませんの。外傷による記憶喪失ではないようですわ。」
「ということは心因性?やっぱり、あの男のせいで心を痛めているんだわ。」
母はそう言って、ダイアナを抱きしめた。
あの男というのは、おそらくジルベールのことに違いなかった。
記憶を失う前のダイアナは、国のために自分が頑張ればいいと必死になるあまり、両親の心配を蔑ろにしてしまっていたことに気づいていなかったのかもしれない。
朝食の場には男の子が一人座っていた。
母と同じ髪色と目の色で、父によく似た顔。弟のアルファスだと思った。
「おはようございます。姉上、いつもより遅くないですか?制服ではないので学園はおやすみするのですか?」
リサが着せてくれたワンピースを見て、アルファスは疑問に思ったらしい。
学園に行ける状態ではないと判断し、リサは制服を着せなかったのだとわかった。
「ダイアナ、アルファスを見ても思い出せないか?」
「申し訳ございません。思い出すことはありませんでした。」
残念なことだった。
家族も、使用人たちも、覚えている顔はない。
「アルファス、ダイアナは記憶喪失になった。誰のことも覚えていないらしい。」
「はい?記憶喪失、ですか?いつから……」
アルファスが驚きの目でダイアナに視線を向けた。
「先ほど目を覚ました時には、自分のことも誰のことも覚えていないことに気づきました。わたくしは弟のあなたをアルと呼んでいたと聞きましたが、そう呼んでも構いませんか?」
「ええ。もちろんです。が、何故そんなにも落ち着いていられるのです?いつもの姉上とそう変わらないように見えますが。」
「あら。記憶がなくても性格というのは大きく変わらないのかもしれませんね。
わたくしが落ち着いて見えるのでしたら、それは知識は失っていないということと、わたくしがここで大切にされていたと実感できているからなのかもしれませんね。」
自分がクロスフォード公爵家のダイアナであると信じることができるから。
記憶を失っていても、素直な心根というものは変わらないようですね。
……わたくし、騙されていても気づけないのでは?
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