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しおりを挟むケビンが伯爵になってからすぐ、夜会の招待状が届いた。
ある公爵家からで、噂好きの夫人がいる。
噂好きと言っても、嘲笑するために招くのではなく、どう噂を乗り切るかを見定めようとするらしい。
声を掛けてもらえなければ、先行きは危うくなる証拠だとか。
嘘か誠かは定かではないが。
「ジュリア、今度公爵家で開かれる夜会に一緒に行ってほしい。」
まだジュリアと婚約も結婚もできていなかった。
父とカトリーヌのことが社交界に広まる前に、ジュリアは実家のクレメンス伯爵家から籍を抜いた。
ジュリアと結婚すると言えば、クレメンス家は援助を求めてくるだろう。
ジュリアが離婚した際、慰謝料だけ自分たちが手にしてジュリアを追い出したような親だ。
ケビンの愛人だと知られるようになった際、恥ずかしいからやめろと言ったような親だ。
ジュリアが伯爵夫人になると知れば、すり寄ってくるのは明らかで、その前に縁を切ることになった。
彼らがクレメンス伯爵家にジュリアの籍を残していたのは、いずれ利用できるかもしれないし、問題があれが切ればいいと思っていただけだろう。
利用されないように、こちらから先手を打った。
祖母の甥の養子にしてもらえることになり、近々手続きを済ませて入籍することになっていた。
「夜会ね。わかったわ。」
「うちの醜聞に巻き込んで悪いが、何を言われても俺が守るから。」
「大丈夫よ。あなたの愛人になると決めた時、ミシュリー様に言われていろんな覚悟をしたから。」
「あの人が何を?」
ジュリアはミシュリー未亡人のところに行ってから、随分と強くなった。
無口で大人しい印象だったのが、明るく前向きになった。
「『愛人というのは夫のいる女性からすれば敵のようなもの』とか、『嘘の噂が流れても否定も肯定もしなくていい』とか、『愛人は空気を読む必要はない』とか。」
「空気を読む必要はない?」
「愛人が身を引く時は、それ相応のものを貰って別れるべきで、こちらが相手や周りの意を汲んでやる必要はないのだっておっしゃっていたわ。
自分の気持ちは自分にしかわからない。相手の気持ちを勝手に思いやって身を引くのは間違いだって。
別れたくなったら自分の口で言うべきで、愛人関係を終わらせる対価を貰うのは当然のことだから、遠慮したら損するだけだって。」
あぁ、なるほどなぁ。
周りにお前の存在が邪魔なんだと言われて、『愛する人には幸せになってほしい』と姿を消したとしても、愛人をやっていた女にもその後の生活がある。
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ジュリアみたいに、本来であれば愛人になるようなタイプではない女性は、相手の感情や立場を優先して身を引いてしまいそうなところを、ミシュリーは『愛人になるなら図々しくなれ』と教えたのだろう。
ミシュリーが”仕込んであげる”と言ったのは、家事だけでなく、愛人の心構えについてもだったのだと今更ながらに気づいた。
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