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ジークハルトはテラスでしばし、ボーッとしていた。
そこに近づいてくる足音に気づかないほどに。
「ジークっ!」
いきなり名を呼ばれ、ジークハルトはビクッとして振り返った。
「……ルーナ。ちょっと、久しぶりだな。」
ルーナはジークハルトに少しずつ離れると言ってから来ていなかった。
ひと月以上会わなかったのは領地に行っている時以外ではないかもしれない。
「婚約を解消したって、どういうこと?」
「もう知ってるのか。早いな。」
ジークハルトはルーナに、婚約解消に至った経緯を話した。
「え!?国中を、回る?それに付き添うべきだと?信じられないことを言うわね。」
「それを当然と思うグリーン伯爵にも同意できなくて、お互い譲歩の提案もできないままダメになった。」
「アドリアナ様はそれでよかったのかしら。」
「彼女は、……一緒に行けないなら仕方ないって。今までありがとうって笑ってたよ。」
アドリアナは聖女になった途端、心に占めるジークハルトの割合が小さくなったのだろう。
ついてこないのならいらないという程度にしか思われていない気がした。
彼女のジークハルトが『好き』という感情は、もう見えなかった。
「多くの人を治癒したいって、立派な心掛けだと思うけれど、過去の聖女に倣う必要があったのかしら。国中を回るだなんて、そんな簡単なものじゃないわ。聖女が激減したその時代でも、十数人はいたんじゃないかしら。」
ジークハルトもそう思う。
アドリアナの行動は、無謀でしかない。
だが、もう彼女との関係は切れてしまったため、諭すこともできない。
国は、教会は、どうして止めないのだろうか。
「ジーク……アドリアナ様と別れてあなたが落ち込んでいるのはわかっているわ。こんな時に言うのは卑怯だとも思う。だけど、私にとってはチャンスなの。
アドリアナ様を忘れるのに時間がかかっても構わない。だから、私を選んで。後悔はさせないわ。
あなたが好きなの。そばにいたいの。私を見てほしいの。お願い!!」
ルーナが必死に告白してくれる様子に、胸を打たれた。
初恋の女の子。
明るくて、真っ直ぐで、一途にジークハルトを思ってくれている。
父がなぜ、ルーナを婚約者に選ばなかったのかがわからない。
また別の令嬢を婚約者に据えるのだろうか。
……ジークハルトがルーナを選びたいと言えば、父は許してくれるだろうか。
「ルーナ。嬉しいよ。君の気持ちは本当に嬉しい。僕も次に婚約を結ぶ相手はルーナがいい。
だが、婚約の決定権は父なんだ。説得には時間がかかるかもしれない。」
なぜルーナではダメなのか、そこが問題だから。
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