聖女の後悔

しゃーりん

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トワイニング侯爵家に、国王陛下から突然、通達が来た。

『嫡男ジークハルトは妻ルーナと離婚し、聖女アドリアナと再婚するよう申し付ける』
 
王命ではなく通達だったが、わかりましたと了承できる内容ではない。
 

「……父上。」

「わかっている。理由を聞かせてもらわなければ納得できるはずもない。」


貴族の結婚・離婚に国王陛下が口を挟めるのは、国の一大事や他国が関係することがほとんどである。
だがこの通達は、それに該当するとは思えないものだ。

なぜ、妻子ある男に聖女を嫁がせようとしているのか。
既婚のジークハルトではなく、独身の男を選ぶべきではないか?



父はすぐさま、国王陛下との面会を取りつけた。

その場には、グリーン伯爵夫妻及びアドリアナも呼ぶとのこと。
こちらがすぐに了承しなかったことに、国王陛下も双方から話を聞くつもりなのではないか。
つまり、これは国王陛下の独断ではなく、グリーン伯爵家の意向を汲んだ通達だ。


「グリーン伯爵は国王陛下を味方につけたか。聖女という立場を利用したな。」

「アドリアナはどうして今更こんなことを?先日、やってきた時は少し様子が変でしたが。」

「さあな。お前がずっと聖女を待っていると勘違いでもしていたのかもしれないな。」

「まさか、そんな。」


ジークハルトがルーナと婚約したのはアドリアナが旅に出る前のことだ。
婚約したのだからいずれ結婚すると思わなかったのだろうか。
結婚したと話した時は確かに驚いていたが、こちらも彼女が驚いたことに驚いた。

ひょっとすると、婚約したことも耳に入っていなかったのかもしれない。
あの頃、アドリアナは聖女の使命として国中を回ることに意気込んでいたから。


「だが、妻も子もいるお前を奪うような真似を聖女がすることも、それを許す国王陛下もどうかと思うがな。」

「そうですよね。」 


そこに何か理由がありそうだ。



これは、誰が望んだことなのだろうか。


アドリアナだとしたら、ジークハルトに待っていてほしかったのか。

グリーン伯爵夫妻だとしたら、娘が望む相手と結婚させたいのか。

国王陛下だとしたら、聖女を王都に留めようとしているのか。


いや、全員の思惑の一致なのかもしれない。

こちらの意思を一切無視した、こんな理不尽な命令に従う気はない。
 
ジークハルトは、ルーナと子供たちとの未来のために、何としても受け入れるつもりはない。

登城する日まで情報収集に努めた。 



ルーナにもこのことは伝えた。


「国王の権限で無理やり離婚させられたら、愛人にしてね?」


妻という立場でなくなっても、絶対にジークハルトから離れないというルーナの意思を感じた。 

愛人を持とうなどと考えたこともなかったが、万が一の時には別邸で囲おう。
本邸に帰らない夫をアドリアナが嘆いたとしても、ジークハルトの愛はルーナにだけだから。



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