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王城から自分の部屋に戻ったアドリアナは、自分の行いを後悔していた。
「嫉妬。私がなるはずだったジークハルト様の妻になったルーナ様への嫉妬。お子様たちを産んだのは私ではなかったという嫉妬。それらをルーナ様が手に入れたという羨ましさ、憧れ、それが羨望。」
旅の間もジークハルトをずっと思っていたからではなく、ルーナの立場になりたいだけだという思いを彼は気づいていた。
結婚して、子供を持つ。
貴族令嬢として実家と婚家を繋ぎ、家名を繁栄させるために一番望まれること。
そう教えられてきた。
優しいジークハルトの婚約者になれて幸せな結婚生活を送るだろうと思っていた。
しかし、聖女になり、過去の聖女の行いの記録を読んだことで、国中を回ることが自分の使命なのだと思い込んでしまった。
そのことに賛成してくれたのは両親だけ。
国王陛下や教会が反対したのは、聖女は王都にいるべきだという思いから。
ジークハルトは自分には侯爵家の跡継ぎとしての責務があると同行を断ったが、それは当然のことだと今ならわかる。
旅の途中、侍女や護衛が何度も帰ろうと言っていた。
今思えば、彼らは色々と苦労していたのだろう。
自分は馬車に乗っているだけ。治癒しているだけ。出された食事をとっただけ。
実家にいたときと同じようにお世話されるばかりだった。
髪を洗うのが大変だと言った侍女の軽口に、じゃあ切るわ、と言って切ったのは自分。
自分は聖女なのだから、聖女の行いに邪魔なものはいらないと思っていた。
自分よりも侍女の方がショックを受けてしまった。
侍女が解雇されることになるほどとは知らなかったから。
治癒する相手の意思を確認することなんて思いもしなかった。
亡くなった妻の元に行きたかったのに、怪我を治癒で治してしまった時の男性の絶望した顔。
食い扶持を減らそうと餓死しようとしていた老人を治癒した時の怒った顔。
まさか、治癒をして怒られることがあるとは思わなかった。
治癒は望む人にだけすべきなのだと気づいた時、それが後悔するということだったのだろう。
自分の行いが本当に正しいとは限らないのだと知り、魔力にブレが生じ始めた。
王都に戻ってきてからは、聖女の仕事を誇りに思っていたのに、三年前とは違う自分の姿に愕然とした。
幸せそうなマリー。
幸せそうなルーナ。
夫に愛され、血を繋ぐ子を産んで輝いていた。
自分もああなりたい。
聖女で居続けることが幸せだと思えなくなっていった。
ジークハルトと結婚したい。
ルーナの立場になりたい。
そう思った時、魔力が減少するのを感じ、聖女ではなくなってしまった。
他人から奪ってまで自分のものにしようと思ったことが、聖女に相応しくなくなってしまったから。
でも、ジークハルトの妻になって幸せになれれば、また聖女になれるかもしれないと思った。
それは間違いだった。
自分は、ルーナにはなれないのだから。
負の感情は、誰もが持っている感情だから批判されるものじゃないとジークハルトは言ってくれた。
それで少し、救われた。
それでも後悔はしている。
今後は、欲に惑わされず心安らかに生きていくために、修道女になりたい。
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