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ジークハルトが父と屋敷に戻ると、ルーナが待ち構えていた。
不安そうなルーナの顔を見て、ジークハルトは彼女の側に駆け寄って抱きしめた。
「大丈夫だ。通達は取り消された。」
ジークハルトがそう言うと、ルーナはホッとしたようで肩の力を抜いた。
「よかったわ。離されるかもしれないと思うと怖かった。」
離婚させられてもジークハルトの愛人になると言っていたが、強がりを言っているのはわかっていた。
ルーナの部屋に入り、王城での話を説明した。
「実は、アドリアナは聖女の力をなくしてしまったらしい。」
「そうなの!?」
やっぱり驚くよな。
我々は聖女を知らない世代であり、得た魔力が失われることになるとは思いもしないことだ。
「ああ。僕が調べた結論と教会の意見も一致したんだけど、怒りや悲しみ、嫉妬とか不安の負の感情をあまり持たない者が聖女になり得る素質があるようなんだ。
ただ、アドリアナは旅をしているうちに、そう言った感情を覚え始めて魔力が不安定になった。
そして、王都に戻ってきて、幸せそうなルーナに嫉妬して、上級の魔力を失ったんだ。」
「私に?あ、だから、ジークと結婚しようとして?」
「ああ。自分がルーナになれたら聖女の力が戻ると思ったみたいだ。だが、知らなかった感情を覚えてしまうと、知らなかった頃には戻れない。だから、アドリアナは聖女には戻れないと言ったんだ。」
ジークハルトはそう結論を出したが、それでも、やってみなければわからないとアドリアナとの再婚を命じられてもおかしくはなかった。
今後の参考に試してみてくれと言われたら、従わざるを得なかっただろう。
おそらく、アドリアナの魔力値が下級にまで下がってしまったことで、結婚させても聖女には戻れないと国王陛下は悟り、無理やり離婚させても仕方がないと判断されたのだ。
「アドリアナ様は、心の清らかな方だったから。嫉妬とか不安を覚えてしまったら怖かったでしょうね。」
「そうだな。だけど彼女は、その感情を認めて聖女ではなくなった自分を受け入れたようだった。
ルーナにも謝罪を口にしていたよ。二度と迷惑をかけないと言った彼女は落ち着いた顔に戻っていた。」
「よかった。アドリアナ様が嫉妬に飲み込まれなくて。」
ルーナは、自分は何度もジークハルトの婚約者だったアドリアナに嫉妬して壊れそうになりかけたと自嘲して言った。
当時、笑顔の裏でルーナがどんなに苦しんでいたのだろうかと思うと、胸が苦しくなる。
ルーナを抱きしめて、もう二度と不安にはさせないとジークハルトは誓った。
数日後、聖女が存在しなくなったことは広まり始めた。
そもそも、聖女の存在を国は公表していなかった。
そのこともあり、聖女がいなくなったことも公表する必要はなかったが、アドリアナが聖女の活動をしていたことは多くの者が知っていたため、治癒魔法の上級魔力値を持つ者はいなくなったと教会が口にした。
上級の魔力値は、長い間、保つことができないものらしいという噂も広まり、アドリアナが責められることがないよう配慮されたようだった。
そのアドリアナは、両親の反対を押し切って修道女になる道を選んだと聞いた時は、彼女らしいなとジークハルトもルーナも思った。
アドリアナなら、また中級の魔力値を取り戻すことができる気がした。
次に聖女が誕生するのはいつになるだろうか。
後悔や嫉妬を覚えてしまうと、聖女でいられなくなってしまう。
そう知ると、聖女はもう二度と誕生することはない気がする。
<終わり>
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