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声をかけてきたのは人の好さそうな40歳くらい男性で、怪しさは感じなかった。
まぁ、人は見かけによらないとも言うので、本性はわからないけれど。
でも、どの道ジュゼットの行く先は明るくない。
本当に借金を返済してもらえる可能性があるというなら、話を聞いてみたいとついていった。
そこは宿の一室だったので少し躊躇はしたけれど、この人にはそんな気は全くなさそうなので誰にも聞かれない話のために部屋までとったのだと思った。
「ジュゼット・コールマン伯爵令嬢。
御父上のギャンブルによる多額の借金の返済まで残りあとひと月ほど。
それを過ぎれば、あなたたち家族はありふれた日常生活を送ることは不可能になる。
まして、もう二度とお互いに会える日は来ないかと思われます。
間違いございませんか?」
「………はい。おそらくそうなると思います。」
「そんなご令嬢にこちらのお願いする仕事を引き受けて下されば、全額返済をお約束します。
この提案はこの場限り。どうされますか?」
この人は、ワザと仕事の内容を話していない。
ジュゼットが受けると決めて契約をしてからでないと話さないのだと思った。
どこの誰かはわからない。貴族か貴族に仕えている人に思える。
質問は受け付けない。
仕事を受けるか受けないか。それだけを求められていた。
「お受けします。」
どうせひと月後には売られるような身なのだし、借金がなくなるのであれば兄は離婚しなくて済む。
兄と義姉は、とても愛し合っている。
離婚しても義姉は実家に戻ってひどい目に合うかもしれない。親と仲良くないと言っていたから。
結局、義姉も不幸になるに違いない。
父にはもうギャンブルをしないように見張りをつけるしかない。
領地経営には問題はないので、借金がなくなればやがて貯えもできて元の伯爵家に近づくことだろう。
私はそれを見届けることができないかもしれないけれど。
「かしこまりました。
契約後は条件が満たされるまで、あるいは、こちらが指定する期日まで解消はできません。
解消後も契約内容については口外禁止となります。よろしいでしょうか?」
「はい。」
いつか解消されるの?一生何らかの契約に縛られることになるのかと思っていたわ。
まず、秘密保持の契約書にサインをした。
それから聞かされた仕事内容は、はっきり言って拍子抜けした。
いや、貴族令嬢としては終わっているかもしれない。
だけど、それで借金がなくなるのであれば、飛びつきたくなる女性は多いだろう。
仕事内容の契約書にもサインをした。
なぜ、ジュゼットだったのかはわからないけれど、自分が選ばれたことに感謝した。
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