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しおりを挟む研究施設が瓦礫と化したと報告が入ったのはリリスティーナが死んでひと月が経つ頃だった。
「え……?もう?まだ、聖堂の図案すらできていないのではないの?」
侍女ミミの中に入ったままのリリスティーナは驚いた。
まさか、こんなにも早く取り壊されてしまうとは思ってもいなかったのだ。
そろそろあの場所を訪れて、術を書き写して来ようと思っていたところだった。
「あんな建物、二度と見たくない。お前にも見せたくなかったからな。」
そういう理由で取り壊されていたとは……だから、外出させてくれず、なかなか術を書き写しに行かせてもらえなかったのだとわかった。
「それに、術も書き写してもらってきたぞ。陛下から書物の貸出は無理だと言われたから王城で調べることになる。いつにする?」
「……公爵と侍女が二人で王城に行くというのはどうなのでしょうか。」
侍従ではなく侍女を連れて王城を歩くのは公爵である父に妙な噂を立てられることになるかもしれない。
父は侍女ミミではなく娘リリスティーナを連れて歩く感覚で言ったのだと思った。
早くミミの体から出なければ、父も母もミミを近くに置くことに慣れすぎて困ったことになる。
ミミはミミなのだ。
リリスティーナと思って接する時間が長くなれば、使用人たちも異変を感じるかもしれない。
「……ラッセルを連れて行くか。」
兄も一緒であれば、大丈夫だと思う。
数日後、父と兄と共にミミ姿のリリスティーナは王城へと向かった。
リリスティーナが最後に訪れたのは、婚約者であったウォルタス王太子殿下の傷を治したときである。
大怪我を負った人物など、令嬢が目にする機会などほとんどあり得ない。
もし目にすることがあっても、彼が婚約者でなければ治療に立ち会うこともなかっただろう。
リリスティーナに発現した未知の魔力は、その機会がなければ気づくことはなかったと思う。
あの時、負傷した殿下の姿を見なければ、リリスティーナは死ぬこともなかった。
そんな考えが頭によぎったが、過去は変えられない。
案内された部屋には書物は置かれていなかった。
もともと禁術扱いで保管されていたはずの書物である。
ウォルタスが無断で使用したことから、書物の扱いは厳しく管理されることになっているだろう。
ではその管理者がここに持ってきてくれるのか。
そう思っていると、やってきたのは国王陛下だった。
「私も愚かな息子がしたことを見届けなければならない。リリスティーナ嬢の精神が50年もの間、あの場所に彷徨い続ける以外にも何か、術に組み込んでいないかを。」
国王陛下は息子ウォルタスに毒杯を与えることになり、名声を落とした。
それでも、潔い決断だったと公表したことも併せて擁護する声もある。
第二王子殿下はまだ14歳であるため、国王陛下の退位を求める声はほとんどなかった。
しかし困った。
リリスティーナが自分で解読するつもりでいたのに、国王陛下の目があるために動けない。
一介の侍女が禁書を解読するなど不自然である。
『お兄様、お任せしますね。』と念を送るかのように見つめると苦笑された。
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