聖女になりたいのでしたら、どうぞどうぞ

しゃーりん

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国王陛下は禁術の書物を兄ラッセルに差し出した。

公爵が息子を連れて来ているのだから、解読するのは息子の方だろうと思うのは当然である。 


「……拝見させていただきます。」
 

侍女ミミとしているリリスティーナは、術が書き写されている紙をさりげなく兄に渡した。 

何故、侍女が持っていたのかは聞かれなかった。
しかし、この紙を渡すためのだけにこの侍女は一緒に来たのか?という微妙な空気があった。
 
国王陛下と一緒に入ってきたのはこの国の宰相と護衛騎士二人。
宰相には何を調べようとしているのかを話しているのだろう。
護衛騎士たちは知らないであろうけれど、先ほど国王陛下の話した内容は聞こえたはず。
彼らは極秘の話を耳にしても守秘義務があるはずなので問題ない。意味不明だろうけど。

どこか息が詰まりそうな緊張感を打ち破ったのは、扉がノックされる音だった。 


侍女がお茶を運んできた。


それがまるで天の助けに思え、リリスティーナはいそいそと侍女の元へと向かい、手伝った。 

国王陛下のカップやお茶には手を出さず、父である公爵と兄の分を運ぶという侍女らしきことをした。


その後、そのまま存在感を消すように過ごすこと、しばらく。

兄ラッセルの様子が変わった。
何か狼狽えているように見えるのだ。

まさか、とんでもないことを術に組み込んでいた?

兄は指でその個所を何度もなぞるようにした後、震える声で父に問いかけた。


「父上、この書き写された術に写し間違いの可能性はありますか?」

「……いや、一文字一文字何度も確認をさせた。最終確認を三人にさせたのだ。可能性は低いだろう。」

「そう、ですか。」

「もう解読できたのか?」

「ええ。術に組み込む言葉は端的で文章ではないので。対比する解読表もありましたから。」


でしょうね。そうじゃないとウォルタスが術を発動できたとは思えないもの。


「それで?何か問題があった、のだろう?」
 
「……リリスティーナをあそこに閉じ込めた術の期間は50年ではありません。500年、です。」

「ごひゃくっ……」


思わず声に出してしまい、リリスティーナは慌てて口を塞いだ。

そんな侍女の姿など国王陛下たちも気づかないほど驚いていた。

 
あの、アホバカマヌケな殿下は数も数えられずに桁を間違えたの?
50年なら、本来生きるであろう寿命を少し越した辺りで術がとけて精神も死ねることになるのだと思っていたのに、500年?!

途方もなく長い時間を、リリスティーナのことを覚えていない人たちと過ごさなければならない?


気がつけば涙を流していたようで、父に涙を拭われて抱きしめられていた。 
 
 

 
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