聖女になりたいのでしたら、どうぞどうぞ

しゃーりん

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公爵である父は、ユリアの覚悟を聞き、頷いた。 

 
「ちょうどいいから、下にいるパルモア伯爵を呼ぶか。結婚を取りやめるよう私から伝えよう。」
 

父の言葉に、パルモア伯爵夫妻が連れて来られた。
入れられた部屋でブツブツ文句を言っていたのに、会ってもらえると聞いた途端、機嫌がよくなったらしい。

ユリアは別室で待ってもらうことになった。
 

「お会いさせていただき感謝申し上げます。ユリアはお気に召しましたか?」

「ああ。そうだな。」

「ではっ!」

「彼女には結婚の話があるそうだが?」

「大した縁談ではございません。少々歳も離れていることですし、あの子に相応しいとは言えませんので。」
 
「そうか。ではすぐ断るように。」

「承知いたしました。……で、手続きの方は?」

「ん……?ああ、まだ聖堂ができていないからな。完成してからになる。」

「聖堂……?完成、ですか?何のお話でしょうか。」

「ユリア嬢の働き口の話だが?」

「働き口?!」
 
「ああ。彼女は結婚よりも聖堂で娘に祈りを捧げる日々を選んだ。殊勝な娘だ。」


パルモア伯爵と夫人は口と目を丸くしていた。 


「な、な、どういうことです?養女の話は?」

「養女?それは何だ?」

「ユリアを養女にしてくれるつもりで呼んだのではないのですか?」

「そんなこと、誰が言ったのだ?」

「ユリアが新たな王太子殿下と年齢的に合うから婚約者にとお考えだとばかり…」

 
王太子となった第二王子殿下は14歳でユリアは15歳。
それだけでそこまで思い込めるとは驚きだ。


「まるで我が公爵家がなんとしてでも王家と縁を結びたがっているかのように聞こえるが気のせいか?」
 

父に冷たい目で見られたパルモア伯爵は顔を羞恥で真っ赤にさせていた。


「そもそも、ユリア嬢は伯爵令嬢だ。両親と姉が罰せられた彼女には伯爵位は荷が重いと考慮されたこともあって、あなたに伯爵位が渡ることになった。ちゃんと彼女に対して責任を持つ意味であなたは養女にしたはずだ。違うか?」

「それは、そうです。ですから、結婚相手を見つけたではありませんかっ!」

「歳が離れていて、彼女に相応しくない相手と自分で口にしたばかりではないか。」


パルモア伯爵は口を噤んだ。 


「相手が悪すぎる。厄介払いだと目に見えてわかるし、あなたの信用も落ちるだろう。」
 
「信用が……?」

「そこまで考えていなかったようだな。
それに、正統な跡継ぎがユリア嬢だと結婚相手が乗り込んでくる可能性を考えなかったのか?42歳の男なのだろう?その辺の小僧じゃない。ユリア嬢との間に子ができれば自分がパルモア家の実権を握れると爵位の返還を求めるだろう。たとえ、ユリア嬢にその気がなくてもな。」

「あ……」


そうなのだ。
このパルモア伯爵に話を持って行った子爵は、自分が弟よりも出来が悪いことをずっと気にしていて、いつか弟に地位を奪われるのではないかと怯えているような男なのだ。

つまり、弟をユリアと結婚させることで若い妻に夢中にさせて領地に閉じ込め、子が出来てもパルモア伯爵家の方を意識させようという姑息な考えで打診された話である。

酔っ払うと暴力を振るう男という情報も本当だが。


「相手の男がパルモアを望んでいるかどうかまでは知らないが、子ができれば欲が出るかもしれない。あるいはユリア嬢の両親や姉が接触して唆すかもしれない。そう、先々を読む必要がある。」

「おっしゃる通りでございます。」 
 

この男は、ただユリアを厄介払いすることしか考えていなかったのだ。 



 
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