聖女になりたいのでしたら、どうぞどうぞ

しゃーりん

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代替わりした新たな聖女イボンヌとアレクサンドル第二王子殿下の結婚が発表された。

婚約ではない。即、結婚となった。

アレクサンドルと結婚するための準備など、リリスティーナには興味がない。 
 
リリスティーナが王族との結婚などという面倒な立場を手に入れたのは、王城・王宮を自由に動ける存在になるためであった。 

なので、最初はアレクサンドルの婚約者であるジュリエッタを聖女に選ぶつもりでいたのだ。
だが、ジュリエッタよりもイボンヌを聖女にした方が救いがあると思った。
 

イボンヌは婚約を解消されたばかりで、聖女になることで元婚約者や家族を見返してやりたいと思っていた。

聖女になれなければ、イボンヌの将来は明るくなかっただろう。
少々性格に難のあるイボンヌが、爵位のない騎士や文官と結婚できたとしてもその暮らしに満足できるわけがないのだ。 
早々に離婚され、実家からも邪魔者扱いされ、領地の片隅に置いてくれればまだいい方ではないかという将来しか見えなかった。
 
ジュリエッタはイボンヌと違い、努力することで自分の居場所を見出せる。

そう思い、リリスティーナはイボンヌを聖女に選んだ。

アレクサンドルの妃になりたがっていたことも、決め手の一つである。


 
聖女が既婚者になった場合、聖堂にも自分の部屋はあるが、嫁ぎ先にも部屋を用意してもらっていた。
乙女であり続けるために夫婦の寝室は使わずに、別々で寝ていた。
もちろん、そのことに不満を抱かないように夫の精神に少し干渉して。

ジュリエッタの祖母が聖女であったときは、本人が屋敷へと戻ることも多かった。
夫と妹の子である息子を可愛がるために。 
しかし、夜は聖堂に戻ってきていた。

夫が愛人である妹の住まいへと行くのを見送りたくなかったから。



アレクサンドルとの結婚は、王宮に部屋を用意してもらっている。
もちろん、聖女である間は寝室は別で。
イボンヌが聖女を辞めたときは、彼女は王子妃として暮らすことになる。


リリスティーナは調べたいことがあった。

だから、アレクサンドルとの結婚は好都合だと思ったのだ。

残っているであろう記録を見るために。


リリスティーナはこの150年間、時々考えていた。

なぜ、自分に治癒の力が与えられたのか。

まるで、王太子であるウォルタスを生かすことが狙いだったように思えた。


ウォルタスの背中の傷は医師も首を横に振ったほど、致命傷でどうしようもなかった。

しかし、リリスティーナは思い出したのだ。

何故、今にも死にそうなウォルタスの手を握って祈ったのかを。

『側に行って助かるように祈ってあげてください』 

そうリリスティーナに囁き、背中に手を添えられて、押されたことを。

だから、リリスティーナはウォルタスの元に行ったのだ。


リリスティーナにそう促したのは、誰?


 
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