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しおりを挟むリリスティーナは、婚約者であったウォルタス王太子殿下が背中を切られて死にそうな直前、側に行って祈ってやれと背中を押した人物が治癒の魔力をリリスティーナに授けたのではないかという気がしていた。
リリスティーナが治癒をすることでウォルタスが生き返る。
そして、二人は予定通り結婚する。
やがて生まれる子供たちにも、治癒の魔力が受け継がれ、治癒を使える者が代々増えていく。
そうして他の魔力と同様に、治癒の魔力を持つ者が定着することを願っていたのではないか、と。
最初は王族から治癒の魔力を広めるつもりで、ウォルタスの子を生むであろうリリスティーナに授けた。
授けるきっかけを狙っていたのかもしれない。
しかし、ウォルタスはリリスティーナと婚約解消した。
それでも、リリスティーナが誰か他の人と結婚して子供を生んでいれば、治癒の魔力は引き継がれて増えていくことになっていたのではないか、と。
挙句、治癒の魔力を手放さないまま精神体という中途半端な状態になってしまっているため、治癒の魔力は広まらないままである。
となると、500年が過ぎて、リリスティーナの精神も浄化されれば、新たに誰かが治癒を授かる?
あるいは、体を乗っ取る条件は、リリスティーナが死んだ時と同じ乙女でなければならないが、乗っ取った体で妊娠すれば、治癒の魔力は引き継がれていく?
とは言え、乗っ取った体は他人のもの。
いつか返す体で勝手に試すわけにもいかないし、乙女でなくなってしまえば一度その体から出ればもう入れなくなるだろう。
聖女が未婚で子供を産むわけにもいかないし、相手も難しい。
アレクサンドルに抱かれるのは嫌だし、野心のある彼の子供を産むわけにもいかない。
とにかく、イボンヌである間はたとえ彼女が望んでいるとしてもリリスティーナが受け入れるつもりはない。
ひとまず、あの時、医務室でリリスティーナの背中を押したのがどこの誰だか調べようと思ったのだ。
医師ではなかった。
彼はウォルタス殿下の側に立っていたのだから。
ウォルタス殿下の側近や護衛でもなかった。
彼らなら耳元で囁くことなどせずに、目の前で懇願していただろうから。
多分、医師の助手らしき人物。あるいは薬師。
医師以外にも、誰かいた気がするから。
王城の医務室で働いていたのだから、記録はあるはず。
彼または彼女は、治癒を授けるきっかけを求めて、医務室にいたのではないか。
この150年の間に、そう思うようになった。
あの時の医師が生きている間に気づけていればよかったのに。
残念ながら、ウォルタス殿下が運ばれた時の記録には、医師の名前しかなかった。
同じ日の他の患者の記録もそうだった。
別の日には、助手の名前が書いてある。
しかし、あの日は何故か医師の名前しか書いてなかった。
そのため、もうどこの誰だか、調べようがなかった。
そもそも、実在した人物だったのかも、リリスティーナはわからなくなった。
リリスティーナにも薄らとしか記憶にないのだから、未知の存在の者だったのかもしれない。
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