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しおりを挟む非常にありがちな政略結婚。
夫には愛人、愛されない正妻は子供を産んだ後はお飾りになる。
なのに、ヴィオラが愛人を持つことは許されない。
まぁ、ヴィオラの思い人は既婚者なので、初めから希望も何もない。
婚約者が他の令嬢に心を奪われたことが哀しくて、身近にいる護衛騎士に心を許しているにすぎない。
(……殿下があの令嬢に口づけして胸を揉んでいるところを見てしまったのです。)
ヴィオラが心底気持ち悪いと思っている感情が伝わってくる。
実際に目にしてしまったら、嫌になる気持ちもわかる。
逃れられない結婚。
嫌悪している男の子供を産む義務。
そして、仕事だけする将来の自分と、愛人に現を抜かす夫。
子爵令嬢に王太子の心を奪われて、周りからも嘲笑されていることに必死に耐えている。
ヴィオラの心を癒せば、前向きになってくれるだろうか。
そう思い、リリスティーナはひとまずヴィオラを乗っ取ることを同意した。
リリスティーナが嫁げなかった王太子に、しかもクレベール家から嫁ぐことになるとは、最後の最後で因果と言うべきか。
ヴィオラの家族はセレンティナの時ほど無関心ではなかった。
しかし、もうすぐ王太子妃になる娘が無事にその地位につくことを願い、ヴィオラが憂鬱な顔をしていても『妃になるのはお前だ』と見当違いの励ましをしてくるだけらしい。
ヴィオラの中に入ったリリスティーナは、クレベール公爵である父に聞いた。
「お父様、殿下のお相手、モックス子爵令嬢の交友関係をお調べになりましたか?」
「子爵夫妻は調べたが怪しいところはなかった。令嬢の方は、お前の方がよく知っているのではないか?」
「……気になる令息がいます。彼女の幼馴染というソール男爵令息。」
「わかった。調べよう。」
ソール男爵家のエバンは、モックス子爵家のエレノアの幼馴染らしく、エレノアが王太子殿下と一緒にいる時もまるで彼女の護衛かのように近くにいるらしい。
エバンがエレノアの恋人であれば、王太子殿下との関係を黙ってみているはずがないとヴィオラは思っていたらしいが、リリスティーナには怪しく感じてしまう。
婚約者や恋人でも嫉妬しない人はいるし、婚約者や恋人でもないのに嫉妬する人もいるのだから。
(リリスティーナ様はエレノアを排除する気ですか?そんなことをしたら殿下にますます嫌われてしまいますが。)
ヴィオラは王太子殿下を気持ち悪いと言いながら、自分は嫌われたくはないらしい。
だけど、触れられたくない。
未婚の令嬢にありがちな、潔癖症を発動している。
『婚約者の私がいるのに、他の女に触るなんて不潔っ!』といった感じである。
気持ちはわかる。
特に、妻と愛人の同時進行は嫌だ。
子作りは義務なので、その間は自分だけにしてほしい。
二人産み終えたら、その後は一切触れないでほしい。
そのくらいの誠意は見せてほしいものである。
(え?殿下に本当にそう言うのですか?)
(そうよ。子供を産むまでは私。その後はあなたに戻るのだから、抱かれたくないのでしょう?)
(そうですけど、本当にいいのですか?)
(いいわよ。今まで何回結婚して何人子供を産んできたことか。あと二人くらい構わないわ。)
(ありがとうございます!)
代理出産する気分だけど。
数年で二人、間に合うかな……?
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