異世界帰りの元勇者が現代の危機を救う~謎の異世界化、原因究明の旅へ~

ゆる弥

文字の大きさ
5 / 47
序章 仇討ち編

5.まけてない

しおりを挟む
 率直に聞かれた俺たちは話さなければいけない雰囲気になった。

 ここは俺が話さねば。そう思い身を乗り出す。すると、武岩総長も身を乗り出している。アイコンタクトをしてここは引けといわれた気がしたのでひいてあげた。

「佳奈ちゃんや。パパががんじいの所で働いているのを知ってるな?」

「うん! がんじいは偉いんだよね?」

「そうじゃ。それでな、がんじいがお願いして────」

「総長!?」

 俺が総長の言葉を止めようとすると腕を俺の前に出して止められた。総長の言おうとしていることは結果としてそうなっただけなのに。

「────いいんじゃ……お願いしてな、魔物を倒しに行ってもらったんじゃ」

「うん! 絶対倒してくるって言ってた!」

 その言葉が胸に刺さる。
 湧き上がってくる感情がある。

 (そうだよな。絶対倒してくるって、負けねぇって言ってたよな。そうだよ。なのによぉ)

「そうじゃろう? パパは強いからのぉ。ワシもな、大丈夫だと思ったんじゃよ。じゃがのぉ。魔物が予想以上に強かったようなんじゃ。パパは負けてしまったんじゃよ」

「ううん。パパはまけないよ?」

 佳奈の目は強く光っていた。俺なんかより強い目をしている。何か信念があるような。そんななにかを感じる。

「……ワシもな、そう思いたいんじゃがな。負けたんじゃ。殺されてしまったんじゃ。すまんのう」

 残酷なことを告げる総長の唇は震え、このか弱い佳奈にどう伝えたらいいかと迷いながらの言葉だったんじゃないだろうか。

 佳奈の目からは少しずつ涙が流れ始めた。
 だが目を閉じることはなくずっと総長の目を見つめている。

「体はなくなっちゃったけど、パパは、かなの中で生きてるんだ。がんじいと、じんの中でも生きてる」

 衝撃を受けた。こんな五歳の子供が一体どんな心を持てばこんなに強くいられるんだろうかと。

「パパが言ってたの。もしパパが死んでも、必ずがんじいや、じんがたおしてくれる。だから、パパが負けることはないんだって」

 秀人がそんなことを言っていたなんて。五歳の子になんてことを言うんだ。だが、この子なら理解できると思ったんだろう。

 総長に視線を送ると震えて涙を流していた。やっぱり佳奈は最強だ。こんなに強いひとを泣かせるなんて凄い。

「そうじゃのぉ。その通りじゃ! ワシが、刃が、必ずや討ち取ってくれる!」

 歯を食いしばり涙を我慢しているがとめどなく流れている総長の横で俺も涙を流してしまった。莉奈は嗚咽して泣いていた。

「なぁ、莉奈。佳奈は誰よりも強いな? 最強じゃないか! 俺達は佳奈にジスパーダがなんたるかを教えてもらった!」

「そうじゃな。佳奈ちゃんや。また一緒にバーベキューしてくれるか?」

「うん! いいよ! じん! お絵描きしよう!」

 総長の言葉を軽くあしらうと俺とのお絵描きを所望してきた。それには答えてあげようと一緒にお絵描きを始めた。

「ねぇ、じん? パパはどんな風に戦ってたのかな?」

「描いてやろうか? こういう刀っていうものをもってなぁ。そんで、ズバッと斬るんだ!」

 俺は秀人のような人を絵で描きながら斬ったりする絵を描いてみる。

「ねぇ、この刀っていうのはまものをやっつける為のものなの?」

「あぁ。そうだ。パパの刀はな……俺が作ったんぞ?」

 俺が丹精込めて作った刀を使っていた秀人。あれはかなり思い入れがあった。めいまでつけて渡したものだったから。もし残っているのなら俺が回収しないと。

 あいつの気持ちも俺たちが背負っていくんだ。佳奈と莉奈の気持ちも全部ひっくるめて俺は背負っていく。俺ならやれる。その為には自分用の刀も必要だ。火力に耐えうるものを作らないとな。

「えっ!? パパのかたなはじんが作ったの?」

「あぁ! そうだぞ! 『神明』という名前を付けたんだぞ? 天地あまちと合わせると天地神明てんちしんめいとなるんだ。天と地の全ての神々という意味なんだ」

 秀人には説明をそこまでしていなかったが、あの銘を聞いてそれを察していた。頭脳明晰なあいつなら意味までちゃんと分かっていただろう。

「ふーん。すごいなまえをつけてくれたんだね! それなら、やっぱりパパは負けることはないね!」

「そうだな。パパは負けない!」

「そうだぁ!」

 子供らしい顔に戻った佳奈は楽しそうにお絵描きをしていた。秀人がいなくなったと分かっていてもこの冷静さとは。俺たちの立つ瀬がないな。

「良かったらご飯、食べていきません?」

 おばさんがご飯の誘いをしてくれた。俺は食べていこうかなと思っている。チラリと武岩総長の方を見ると悩んでいる様子だった。

「ワシは、帰りますわい。ウチの家内が作ってくれていると思いますので、では、失礼しました」

 頭を下げて自宅へと帰って行った。たしか総長には息子さんと娘さんが居るはずだ。家を出たと言っていたと思ったから、今は二人暮しなのだろう。

「じんくんは随分久しぶりじゃない?」

 小さい頃は遊びに来ていたが、大きくなってからは家は近いが疎遠になっていたのだ。

「そうですね。今日はいきなりきてすみませんでした。佳奈と話せて良かったです」

「こっちも助かったわ。こんなに佳奈ちゃんが強い子だったなんて知らなかったわ」

 佳奈を見ながらおばさんはなんだか嬉しそうにそう言った。

 やっぱり来てよかったな。

 佳奈の言葉で俺の胸の内にあった炎は更に熱を増したのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

唯一無二のマスタースキルで攻略する異世界譚~17歳に若返った俺が辿るもう一つの人生~

専攻有理
ファンタジー
31歳の事務員、椿井翼はある日信号無視の車に轢かれ、目が覚めると17歳の頃の肉体に戻った状態で異世界にいた。 ただ、導いてくれる女神などは現れず、なぜ自分が異世界にいるのかその理由もわからぬまま椿井はツヴァイという名前で異世界で出会った少女達と共にモンスター退治を始めることになった。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

処理中です...