憤怒のアーティファクト~伝説のおっさん、娘を探すために現役に復帰し無双する~

ゆる弥

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14.体を温める知恵

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「ん?」

 目を覚ますとベッドの上でヨダレをたらしていた。
 焦りながら口を拭う。

 隣のベッドを見ると規則正しい寝息を立てているサーヤ。
 しっかりと布団をかけて寝ている。

「俺は……ちょっと飲みすぎたな」

 起き上がるとシャワールームで汗を流す。
 今度は忘れずに服を着て部屋へと戻る。
 窓からはどんよりとした曇り空がみえた。

「雨でも降るかな?」

 窓辺に行き空を眺めてそう呟く。

「ししょー? 今日は出るのやめますか?」
「おっ。起きたか? 雨が降りそうだが今日出る。マナが心配になってきちまったからな」
「ふふふっ。いいですよ。お付き合いします!」

 サーヤは元気よく起き上がるとその場で着替えだした。
 とっさに後ろを向いてその姿が見えないように視線を巡らせる。

「はぁ。頼むからこっちを気にしてくれ」
「あっ。すみません、ししょー。気にしないでくださーい」

 後ろでゴソゴソと動いている。

「どうせなら濡れた時のことを考えて着替えてくれよ? いつもの麻の服じゃ透けるぞ?」
「あっ……そっか」
「濃紺の染物のシャツがあっただろう? あれにローブを着ればいいんじゃないか?」
「なるほど! そうします!」

 また後ろでゴソゴソと動いているのを感じる。本当に娘のように俺の言ったことを聞いてその通りにしている。マナでもこんなにききわけは良くないだろう。

「終わりました! 行きましょう!」
「おう。じゃあ、俺も準備する」

 俺も黒の上下に荷物を背負い、グレーのローブを上から被る。
 これで雨対策はバッチリだ。

 宿を出ると昨日の夜飲んでいた店の前を通り閑散としているメインストリートを歩いて町の外にでる。
 
 北方向とは逆の方向へとおりていく。
 この湖を迂回しながらまた下っていくのだが、この道のりは雨が降っていたからか魔物に出くわすことはなかった。

「魔物に合わないですねぇ?」
「あぁ。魔物も雨は嫌なのかもな」
「ですねぇ。寒いですもんねー」
「大丈夫か? どこかで温まるか?」

 サーヤに視線を向けると震えているのがわかった。

「大丈夫です」
「いや、体温が低くなりすぎると最悪死ぬぞ? そこの林の奥の木の下で雨宿りしよう」
「なんか。すみません」
「いい。気にするな」

 一緒に林の中へと分け入り大きな気を見つけてその下に陣取った。
 防水加工をしたシートを下に敷き、二人で座る。

「すごーい! これ水を通さないんですか?」
「あぁ。水辺の近くに出るヌメットをしってるか? あれの粘液を染み込ませると水を通さなくなるのさ」
「もしかして、そのローブも?」
「そうだぞ。サーヤのは加工のないローブか?」
「加工のあるローブは桁が違うじゃないですか。買えませんもん」
「気が付かなくてすまん。俺のローブを着た方が良い」
「えっ……でも……」

 羽織っていたものをそのまま差し出すと視線をローブに向けたまま固まっている。

「匂いが気になるのか?」

 クンクンッと嗅いでみるが、自分ではなにもにおわない。
 
「大丈夫……だと思うが?」

 それを受け取ってサーヤは自分のローブを脱ぎ差し出してきた。
 大きさが少し小さいが、ないよりはいいだろう。

「おぉー! 水を通さないからか、あったかーい」
「これは随分濡れているな?」

 ローブを見ながらそう口にし、魔力を巡らせた。
 徐々に蒸気が出てきて色が変わっていく。
 乾いたそれを羽織る。

 ふわっと花の匂いのようないい香りが鼻を刺激する。
 これが娘の匂いだっただろうか。
 そんな思いが湧き上がってくる。

 いかんいかん。こんなこと考えていては変態ではないか。

 サーヤも心なしか顔が赤くなっている。

「サーヤ、顔が赤いが大丈夫か?」
「だいじょぶ……です」

 オデコに手を当てて熱がないか確認する。やはり少し熱い気が……。

「熱いぞ?」
「少しすれば冷めますから大丈夫です!」

 少し体を話しながらそう言うので、引き下がった。
 嫌だったか。
 親父にこんなことやられたら嫌だわな。

「なんか、すまんな」
「いえ! 大丈夫です!」

 目の前に荷物から取り出したバケツを置く。その中へと拾った枝を入れていき、魔力を巡らせる。

「トーチ」

 ボッと枝に火が灯り、だんだんと火が強くなってくる。
 その温かさが手から腕、体へとめぐっていく。

「おぉぉー。あったかいですねぇ」
「だろう? こうして温まれば大丈夫だ。ついでに……」

 また荷物からカップを二つだし、火の上に持っていく。
 そのカップに水を注いで少量の酒をたらす。
 俺の方はサーヤよりだいぶ多くしたが。

「お酒ですか?」
「あぁ。酒を飲むとあったまるんだよ。これは旅の知恵だ。これを火にかけて……飲んでみな?」

 サーヤはカップを取り出すとフーフーと覚ましながら、一口喉を鳴らしながら胃へと流し込んでいく。
 カップから漂うアルコールの匂いに笑みを浮かべて喉に流し込んでいく。

 喉から胃へと温かい感覚が流れていきやがて体全体にめぐる。

「ほわぁー。なんかすごい温まりますー。ぽかぽかー」
「はははっ。そうだろう? 冷えた体が温まる感覚。これだから酒は止められないんだ」

 バケツに入れていた火がなくなり、黒いススが残った。
 穴を掘ってススを埋め、サーヤに水魔法で水を出してもらい洗い流す。

「これもいい魔力制御の訓練になるだろう?」
「そうですね……こんなに少量の水は難しいです」
「こうして訓練したもんさ」

 昔これをやろうとして水弾を体にくらったものだ。
 本当に最近の魔法士は魔力コントロールに優れているな。

「さて、じゃあ、進むか。今日のうちに南の街ウルールーには着きたい」
「はい! 元気でてきました! 行きましょう!」

 元気になったサーヤと酒をふくんだ俺の進むスピードは格段と上がった。
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