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2.この国はいい人ばかりだ
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手を引かれるがままに付いて行った先は『粋』領の領地みたい。
検問に差し掛かる。
「ミレイ! 誰だそいつ⁉ どこから連れてきた⁉」
門番のような重装備の人が前の女性へ怒鳴るが怯むことはない。
むしろ堂々としていて清々しい。
「えっ? 新入り。役に立つわよぉ。お兄ちゃんに会わせてくる!」
「お、おい! いきなりタイガさんに会わせるのか? 危険だ! スパイかもしれないだろ!」
「スパイだったら私はとっくに酷い目に合ってるわ。恩人なのよ?」
「ミレイが危なかったのか?」
「えぇ。身ぐるみ剥がされるところだったわ」
門番の人は少し沈黙して何かを考えているみたい。
ガバッと身体をボクに近付けて肩に手を添えた。
「坊主! ミレイを助けてくれてありがとうよ! 入ってゆっくりしてくれ!」
笑顔でボクを門の中へと招き入れてくれた。
信用すると決めたらしい。有難いことだよね。
門を抜けると少し離れた所にカラフルな街並みが見える。
今までいた領では、外見はすべて白くして綺麗なようにみせていた。
この領はそういう縛りがないのだろうなと思う。
その街からはニンニクのような醤油のような香ばしい香りがしていた。
ボクの食欲を掻き立てられる。
お腹が空いているということを胃袋が訴えかけている。
「あのー。何でこんなに色とりどりなんですか?」
「それはね、自分家の壁を字力でカラーリングするからこういう風にそれぞれの色になっちゃうの」
「ボクがいた『覇』の領は白一色でしたよ。だから驚きました」
「個性が出ていいでしょ? 漢字と同じ。個性が大事よ!」
自分の信念を持っているミレイさんは凄く輝いて見えた。
少し前を歩く姿は可憐で魅力的。
綺麗な流線型の身体に思はず見惚れてしまう。
「おぉ。ミレイちゃんじゃないか⁉ 生きて帰ってきたか!」
声を掛けたのは店の主人だと思われるお爺さんだった。
「ちょっと危なかったけどねぇ」
「顔を見られてよかったよ! どうだい? 食べていくかい? その子大丈夫かい? そんなにやせ細って! いっぱい食べていきな!」
いい香りはこの店からの漂ってきている物だ。
ボクのお腹は限界だった。
「ふふふっ。そうしようかな。この子涎出ちゃってるし!」
「えっ⁉ 嘘⁉」
「ふふー! 嘘よ!」
急いで口を拭って損した。よかった。変な子だと思われなくて。
店へ入ることになりテーブルへと座ってメニューを見ると、焼き物から辛み豆腐和えというようなものがある。どれも美味しそう。
実は拾ってくれた爺さんが文字を教えてくれたんだ。だから字は読めるの。
「私は辛み豆腐和えね。この子も食べるから取り皿ちょうだい。あと麺汁二つ」
「あいよ! 麺汁はサービスするよ!」
「いいの? ありがとう!」
少し待って出てきたものは、赤くて少しトロミのある汁に白い四角いものが入っている食べ物。そして、琥珀色のスープに細長いツルツルの黄色い物が入っていて上には肉と野菜がのっている。
「さぁ。食べましょう!」
そう言うなり、ミレイさんは赤と白の食べ物を掬って口へ運んだ。ボクも真似して食べてみる。口の中が熱くなり、感じたことのない刺激がきた。
「んんっ! なんかビリビリする!」
「あぁ! いつも辛実入れて貰ってるから! 辛かった⁉ 大丈夫!?」
「はい。でも美味しいです! これが辛いってことなんですね」
「もしかして辛いの初めて?」
「ボク生まれてから今までパンしか食べたことがなくて」
それからボクの生い立ちを話した。
生い立ちといっても『覇』の領の路地に捨てられていたボクは気まぐれで同じ路上生活者の爺さんに拾われたこと。
左の漢字を見た人にゴミ集めをしろと命令され、ずっと死体とゴミ集めをやらされてきたので、何も感じなかったこと。
人とは大多数がこうして生きている物だと思っていたこと。
一部の人のみ家があり裕福だと言われていたということ。
いつの間にかミレイさんの目には涙が溜まっていた。
「ごめんね。辛いこと思い出させて……」
「いえ。ボクからしたら普通のことだったので、今の状況の方が異常ですから」
「そっか。これが日常になるからね? もう少し露出の少ない服を着よう? 寒いでしょ?」
「まぁ。慣れましたから。大丈夫ですけど。肩は隠したいですね」
「それ、なんで隠してるの?」
それはもっともな質問だった。たしかに領の為に使っていたらもっといい生活ができていたかもね。でも、あの領では捨て駒の様にボロボロになるまでこき使って捨てられてたと思うけど。
「ボクを拾ってくれた爺さんに言われたんです。『使』の方は隠しなさいと。二文字持っていては目立つから、この人の為に使いたいと思える人を待った方がいいと言われたんです。そして、その日は本当に訪れた」
「それで私を助けてくれたのね?」
「あの時の判断は正しかった。よかったです」
ミレイさんに促されて麺汁も食べてみた。ほのかに醤油の香りがして美味しい。麺は初めてで啜れなかった。
そんなボクをみても微笑みながら「慌てなくていいよ」と優しく啜り方を教えてくれた。
ゆっくりと食べる様子を見ていてくれた。
本当においしくて全部綺麗に食べ切った。
お店のおじさんも嬉しそうに微笑んでいる。
前の領ではこんなに笑顔の人はいなかった。誰もが絶望していて生きていくのに精いっぱいだ。あれはきっと皇帝がいけなかったのだろう。兵士がやけに偉そうだったのを覚えている。あの領もここみたいになればいいのに。
「ご馳走さま! また来るね!」
「あぁ! またサービスさせてくれや!」
「ありがとう」
「なぁに。タイガさんにはお世話になってんだ。少しでも恩返しさせてくれや」
こんなに皆に慕われるタイガさんというのは一体どんな人物なんだろう。
その疑問はすぐに解消されることになった。
検問に差し掛かる。
「ミレイ! 誰だそいつ⁉ どこから連れてきた⁉」
門番のような重装備の人が前の女性へ怒鳴るが怯むことはない。
むしろ堂々としていて清々しい。
「えっ? 新入り。役に立つわよぉ。お兄ちゃんに会わせてくる!」
「お、おい! いきなりタイガさんに会わせるのか? 危険だ! スパイかもしれないだろ!」
「スパイだったら私はとっくに酷い目に合ってるわ。恩人なのよ?」
「ミレイが危なかったのか?」
「えぇ。身ぐるみ剥がされるところだったわ」
門番の人は少し沈黙して何かを考えているみたい。
ガバッと身体をボクに近付けて肩に手を添えた。
「坊主! ミレイを助けてくれてありがとうよ! 入ってゆっくりしてくれ!」
笑顔でボクを門の中へと招き入れてくれた。
信用すると決めたらしい。有難いことだよね。
門を抜けると少し離れた所にカラフルな街並みが見える。
今までいた領では、外見はすべて白くして綺麗なようにみせていた。
この領はそういう縛りがないのだろうなと思う。
その街からはニンニクのような醤油のような香ばしい香りがしていた。
ボクの食欲を掻き立てられる。
お腹が空いているということを胃袋が訴えかけている。
「あのー。何でこんなに色とりどりなんですか?」
「それはね、自分家の壁を字力でカラーリングするからこういう風にそれぞれの色になっちゃうの」
「ボクがいた『覇』の領は白一色でしたよ。だから驚きました」
「個性が出ていいでしょ? 漢字と同じ。個性が大事よ!」
自分の信念を持っているミレイさんは凄く輝いて見えた。
少し前を歩く姿は可憐で魅力的。
綺麗な流線型の身体に思はず見惚れてしまう。
「おぉ。ミレイちゃんじゃないか⁉ 生きて帰ってきたか!」
声を掛けたのは店の主人だと思われるお爺さんだった。
「ちょっと危なかったけどねぇ」
「顔を見られてよかったよ! どうだい? 食べていくかい? その子大丈夫かい? そんなにやせ細って! いっぱい食べていきな!」
いい香りはこの店からの漂ってきている物だ。
ボクのお腹は限界だった。
「ふふふっ。そうしようかな。この子涎出ちゃってるし!」
「えっ⁉ 嘘⁉」
「ふふー! 嘘よ!」
急いで口を拭って損した。よかった。変な子だと思われなくて。
店へ入ることになりテーブルへと座ってメニューを見ると、焼き物から辛み豆腐和えというようなものがある。どれも美味しそう。
実は拾ってくれた爺さんが文字を教えてくれたんだ。だから字は読めるの。
「私は辛み豆腐和えね。この子も食べるから取り皿ちょうだい。あと麺汁二つ」
「あいよ! 麺汁はサービスするよ!」
「いいの? ありがとう!」
少し待って出てきたものは、赤くて少しトロミのある汁に白い四角いものが入っている食べ物。そして、琥珀色のスープに細長いツルツルの黄色い物が入っていて上には肉と野菜がのっている。
「さぁ。食べましょう!」
そう言うなり、ミレイさんは赤と白の食べ物を掬って口へ運んだ。ボクも真似して食べてみる。口の中が熱くなり、感じたことのない刺激がきた。
「んんっ! なんかビリビリする!」
「あぁ! いつも辛実入れて貰ってるから! 辛かった⁉ 大丈夫!?」
「はい。でも美味しいです! これが辛いってことなんですね」
「もしかして辛いの初めて?」
「ボク生まれてから今までパンしか食べたことがなくて」
それからボクの生い立ちを話した。
生い立ちといっても『覇』の領の路地に捨てられていたボクは気まぐれで同じ路上生活者の爺さんに拾われたこと。
左の漢字を見た人にゴミ集めをしろと命令され、ずっと死体とゴミ集めをやらされてきたので、何も感じなかったこと。
人とは大多数がこうして生きている物だと思っていたこと。
一部の人のみ家があり裕福だと言われていたということ。
いつの間にかミレイさんの目には涙が溜まっていた。
「ごめんね。辛いこと思い出させて……」
「いえ。ボクからしたら普通のことだったので、今の状況の方が異常ですから」
「そっか。これが日常になるからね? もう少し露出の少ない服を着よう? 寒いでしょ?」
「まぁ。慣れましたから。大丈夫ですけど。肩は隠したいですね」
「それ、なんで隠してるの?」
それはもっともな質問だった。たしかに領の為に使っていたらもっといい生活ができていたかもね。でも、あの領では捨て駒の様にボロボロになるまでこき使って捨てられてたと思うけど。
「ボクを拾ってくれた爺さんに言われたんです。『使』の方は隠しなさいと。二文字持っていては目立つから、この人の為に使いたいと思える人を待った方がいいと言われたんです。そして、その日は本当に訪れた」
「それで私を助けてくれたのね?」
「あの時の判断は正しかった。よかったです」
ミレイさんに促されて麺汁も食べてみた。ほのかに醤油の香りがして美味しい。麺は初めてで啜れなかった。
そんなボクをみても微笑みながら「慌てなくていいよ」と優しく啜り方を教えてくれた。
ゆっくりと食べる様子を見ていてくれた。
本当においしくて全部綺麗に食べ切った。
お店のおじさんも嬉しそうに微笑んでいる。
前の領ではこんなに笑顔の人はいなかった。誰もが絶望していて生きていくのに精いっぱいだ。あれはきっと皇帝がいけなかったのだろう。兵士がやけに偉そうだったのを覚えている。あの領もここみたいになればいいのに。
「ご馳走さま! また来るね!」
「あぁ! またサービスさせてくれや!」
「ありがとう」
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