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3.初日

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ジリリリリ……

「はっ!」

 目を覚まして起きたのは六時十五分。
 適当に準備しながら、服はジャージ。
 飯は自炊しなければいけない。

 しかも、体を作るためということで、冷蔵庫には鶏肉ばかり入っていた。
 その鶏肉を茹でて昼飯を作る。
 サラダチキンだ。

 なぜ持っていかなければ行けないかというと、金がないからだ。
 俺に金を使う隙は用意されていない。
 そして、昼休憩が十分しかないのだ。

 昨日不思議に思ったものだ。
 六時五十分からというのはなんと中途半端なことかと。
 十分の休憩の為になんだそうだ。

 急いで準備して走って昨日の玄龍先生のもとへと急ぐ。
 もうあと五分という所まで時計の針は進んでいる。

 全力で階段を昇る。
 初日から遅れたら何をされるか分かったものじゃない。もしかしたら殺されるかもしない。そんなことさえ思わせる雰囲気だった。
 息が切れてきたが、休んでいる暇などない。

 足が上がらないのを無理やりあげて何とか階段を登っていく。
 やっとの思いで着いた先の鉄製の扉を開ける。

「ぉはよござます!」

「ホッホッホッ。初日からギリギリとはいい根性だな。もう開始の時間だ。まずはブービージャンプからだ」

 息が切れててもお構い無しで早速メニューに入るようだ。
 やれと言われたブービージャンプはやった事がなかった。

「分かんねぇッス!」

「そこからだったか……こうやるんだ」

 手をついて両足を下げて。
 両足を前に持ってきてジャンプ。
 なるほど。
 死ぬな。

「押忍!」

 返事をして同じ動作を行う。
 思ってたより地味でキツイ感じだ。

「最初の四時間は基礎体力作りだ。そのあと実践訓練。今の動作を五分間続けるんだぞ!」

「お、押忍!」

◇◆◇

 昼時間。

「ゼェゼェゼェゼェ」

 腕関係、腹関係、足関係の全身の筋肉を痛めつけた後にフラフラになりながら鶏肉を食う。
 塩で味をつけた物だ。
 飽きたら味変するつもりだ。

「あぁー。なんか美味く感じるわ」

 プラスで家にあったのがプロテイン。
 準備する意図はわかるんだが、そんなに徹底しなくてもと思ってしまう。

「身体に少し力が戻ったな」

「よし! 休憩は終わりだ! ワシと実践訓練だ!」

 立ち方を教わる。
 基本的な立ち方は自然体。
 頭の前に両手を軽く握り力を抜く。

 そして、いつでも動けるように。
 軽く左右にステップして動く。

「こう打たれたら?」

 ストレートを顔に放ってくる。
 
「クロスカウンター!」

 腕を交差させてカウンターを打つ真似をする。
 真似をしたのだ。俺は。
 鈍い音をさせて顎に拳が刺さる。

「リーチに左右されるからそれは止めておけ」

 なるほど。実際に食らわせて知らせたということかなんだろうが。
 わざわざ殴る必要あったのかよ!?

「じゃあ、どうすりゃいいんすか!」

 手を横にそらす。
 そして、喉に一撃。
 軽く当てられる。

「ぐえっ」

「軽く当てただけでこうだろ? 本気で打ったらどうなると思う?」

「死にますね」

「フンッ。まぁ、死にはせんが、致命傷になる。そして、声が出せなくなる。一石二鳥だ」

 はぁ。たしかに理にかなってる。
 反則な気がするけど。
 喧嘩は拳のぶつけ合いだ。

「反則では────」

「実践に反則も何もないだろう! ナイフ持った相手に反則だからといって反撃しないのか!?」

「いや、ドーグははんそ────」

「喧嘩じゃないんだぞ? 魔法なんぞくらったら死ぬぞ? 敵は確実に殺しにくる。命の取り合いをするんだ。だが、こちらは警護だ。敵の命は取れないが、無力化する必要がある」

「なるほど……」

 あっちが殺しにくるのにこっちは殺せない?
 なんつう不利な。
 それが人を守るという事か。

 大切なことを学んだ気がする。

◇◆◇

「よろしく……お願いします」

「はい。よろしい。よろしく。では、話し方を矯正します」

「はいッス! うわっ!」

 メスが飛んできた。

「はい!」

「よろしい」

 腕を組んで足を組んで椅子に座る。

「まず、おはようございますは?」

「ぉはよざま────」

 咄嗟に避ける。
 あっぶねぇ!

「お、おはよう……ございます」

「よろしい。こんにちはは?」

「ちゃーっ────」

 再び咄嗟に避ける。
 横の壁にメスがストッと刺さった。
 チャーッスじゃないのか?

「こん……に……ちゃーギャーーーー」

「あなた、ちゃんと私の言った言葉を繰り返しなさいな。それぐらいできるでしよ?」

「こん……にち……は」

「そうそう。できるじゃないのぉ」

 いつメスが飛んでくるか気が気じゃない。
 それと、足を組みなおす時の絶妙なスカート具合が……。
 ストッと股のすぐ下にメスが刺さる。

「亮、そんなこと考えてる余裕ないわよ?」

「は、はいぃ!」

 全身がすくみ上がり。
 腕が、足が震えた。
 直立の状態から動けない。

「基本は話す時の語尾にはです、か、ますをつければいいわ」

「はいです!」

「はいは、もうそれが敬語だからいらないのよ」

 頭に手を当ててため息をついている。
 下を俯き困ったような表情をしている。

「はい!」

「あなたは、なぜイージスに入ろうと思ったの?」

 その問い掛けに笑みを消して目を見つめた。
 俺の根本的な大事なところだから。

「俺は、大切な人を殺されたです。他の人に同じような思いをさせたくないです。だからイージスに入ったです」

「理由はわかったわ」

 ニコッとしてこちらを見てくる美麗さん。
 これで良かったのか?
 なら楽勝じゃねぇ────

「うおぉっ!」

 二本メスが飛んできた。
 確実に刺しにきている。

「どこの国の人か分からないくらい片言じゃない。です付けりゃいいってもんじゃないのよ。これは……調教しがいがあるわね」

 美麗先生がコメカミをピクピクしながら、頬を引き攣らせている。
 この先のことを考えると不安だ。
 やっていけっかな。

 俺も自分がどうなって行くのかわからない。
 本当に言葉なんてなおんのか?
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