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22.旅立ち

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「ん? あぁ。そのまま寝ちまったのか」

 シャワーを浴びてスッキリする。

『あっ。翔真起きた?』

「おう。寝ちまってた」

『だね。そういえばいつ出発するの?』

「いやー。もう今日にでも行こうかなと」

『そっか』

「居心地よすぎてさ、ダラダラしちゃいそうな気がするんだよなぁ」

 準備を終えると宿を後にする。

 ギルドに挨拶に行く。
 中に入ると喧騒に包まれていた。

「美麗さん。おはようございます」

「あら? 翔真くん。早いわね?」

「今日出ることにしました」

「昨日の今日で? 早いわねぇ。寂しくなるわ」

「決心が鈍りそうなんで」

 頭をかきながら照れた笑いをうかべる。

「鈍ったらいいじゃない」

 カウンターに両肘をつき合わせた手の上に顔を乗せて見つめられる。
 その格好は、間からお山が覗いているのだが……

「鈍らせてあげよっか?」

「いえ! 行ってきます!」

 元気よく挨拶して出ていく。

 ダメだダメだ。
 このままじゃ行きたくなくなっちまう。

 だが、残される方も辛いようだ。

「はぁあぁ。翔真くん行っちゃった。次に会えるのは何時になるのかなぁ…………気持ち……伝えてればよかったかなぁ……」

 そんなに思われているとは露知らず。
 食料を買い足して町を出る。

「あぁぁぁ。いい天気だ!」

 空に向かって伸びをしながら歩く。
 向かう先は未知の世界。

 楽しみと不安と半々である。

「マップ」

 表示されたのを見ると、ギルドは近くにないみたいだ。

 行く先に1つ赤い点がある。
 そこのダンジョンはクリアしてしまおうかな。

 そう思いながらものんびり街道を歩く。

 これまであった事が頭の中で思い出される。

 両親が死んだと聞かされ、呆然としていたあの時。
 あの時は、美麗さんが優しくしてくれたっけ。
 泣いてる俺の頭を撫でてくれたんだよな。

 その後、資金が底をついてバイトをしだしたんだよなぁ。
 バイト先の人達はみんな優しくて良くしてもらってたな。

 天職を授かった誕生日。
 テイマーだって知った時は絶望したっけな。
 なんたって最弱の天職なんだから。

 理由を話してバイトを続けたいって言った時はみんな同情してくれて、応援してくれた。
 バイトをハシゴしてるのも知られちゃって無理するなって怒られたな。

 配送のバイト先では飲食店でもないのに賄いだっていって弁当出してくれたんだよな。
 有難くガツガツ食べたな。

 蘇芳をテイムした日。
 バイトを辞めさせられたことがショックだった。
 けど、後から美麗さんが教えてくれた。
 あれは、俺がテイムした蘇芳をみてダンジョン攻略で食って行けるって思ったから突き放したんだって。

 みんなハシゴでバイトしてた俺を思っての事だったんだって。
 ダンジョン攻略は1個攻略しただけでもバイト数ヶ月の給料分だから。

 だから、尚更頑張んないといけねぇんだ。
 皆が知ってるような解放者になってアイツはうちでバイトしてたんだぞって自慢して貰えるような人になる。

『翔真? 大丈夫!? なんで泣いてるの!?』

 自分でも気づいていなかったが、いろいろと思い出していたら涙が流れていたようだ。

「いや、なんでもない。ただ色々思い出してただけだから」

『この町の人達、みんないい人達だもんね』

「あぁ。そうなんだよ。俺が出ていく側なのにこんなに寂しい気持ちになるんだもんな。参ったぜ」

『はははっ。美麗さんも寂しそうだったよ?』

「俺も寂しいよ。初恋の人だからな」

『そうだったの!?』

「昔から良くしてもらってて、1番辛い時に支えてくれた人だからな……」

『それならそうと言えばいいじゃない』

 空を見ながら美麗さんの顔を思い浮かべる。

「俺なんかじゃダメなんだって。ずっとそう思ってたから。何も言えなかった……もし俺が強くなって解放者として名を馳せたら…………その時は美麗さんに相応しい男になってるかな?」

『ふーん。やっぱり人間って複雑だね! よくわかんないや!』

「そうだな。俺にもよく分からん。ただのヘタレなだけだ」

『それは、そうだね。凄いヘタレっぷりだ』

「おい! あんまり追い討ちかけんなよ!」

『はははっ! まぁ、自分が納得できるぐらい強くなればいいんじゃない? もう既に人間離れしてるけど』

「そうだな。俺も成長出来たらその時は……」

『前に魔物だ!』

 太刀を受け取り、踏み込む。
 魔物の横を通り抜けざまに太刀を振り抜く。

ズバァァァンッ

 真っ二つになった魔物。

『なんか、太刀捌きが様になってきたね?』

「そうか? まぁこの前のダンジョン攻略ラッシュでレベルが2つも上がったしな。ステータスが増えたのもあるかもな」

『でも、まだ太刀筋が甘いね』

「蘇芳が教えてくれよ」

『いいよ』

 歩きながら蘇芳に太刀の握り方。
 振り下ろす時、振り上げる時の姿勢。
 戦闘中の足運び。
 体重移動の仕方。
 腕の振り方。

 蘇芳が教えだしたら止まらなくなった。
 ずっと喋っている。

 教えて貰ったことを反芻しながら実践していく。
 魔物に対してただ斬り伏せればいいとそう思っていたが。
 動きを見てこう来るからこうしようとか。
 切ったら1回離れて様子を見ようとか。

 今まではあまり意識してこなかったことを意識し始めている。

『うん。やっぱり翔真は根が素直だから凄く吸収が早いね。元々ステータスは高いから修正するだけで凄く良くなるよ』

「お、おう。サンキュー」

 褒められて照れてしまった。

 そういえば、美玲さんもよく褒めてくれたっけ……

 良くない良くない。
 あんまり考えんな。
 ホントにすぐに戻ってきたくなっちまう。

 ブンブン頭を振っていると、怪訝そうに蘇芳が心配してくれた。

『何やってんの? 頭大丈夫?』

「おい! 言い方! もう少し優しく言えよ!」

『はいはい。ほら、魔物来たよ?』

「はいよぉ」

 背筋を伸ばし、太刀を正眼に構える。

 襲ってきたのはブラウンウルフ。
 狼みたいな魔物である。
 3匹いた。

 1匹突っ込んできた。
 太刀の先を向けるとすぐ様横に跳ぶ。

 すると、今度は別の1匹が出てきた。
 サイドステップで避ける。
 更にサイドステップ。

「終わりだ【絶孔(ぜっこう)】」

 魔力が纏う切っ先をウルフに向けたまま引き絞り。
 凄まじい速さで突き刺す。
 同時に魔力も射出され。

 ウルフは全て串刺しになり。
 身体に孔を空けて絶命している。
 やがて土に還る。

パチパチパチパチッ

 拍手した蘇芳が近づいてきた。

『凄いじゃない。綺麗な姿勢だったしちゃんと周りを見て動いてたね。最後の技もバッチリ決まってたし、言う事なし!』

 ポリポリとほほをかきながら。

「お、おう。サンキュー」

 良く照れる。

『もう少しステータス上がったら僕とも組手しようね。今はステータス差があり過ぎてまともに出来ないと思うから』

「そうか。わかった。蘇芳とやれるのか。楽しみだな」

『もう少ししたらね? そろそろダンジョン近いんじゃない?』

「マップ」

 表示されてる赤い点はたしかに近くにあった。

「たしかに近いな。次のギルドへの手土産にしよう」

 軽く言い放ち、ダンジョンへ向かう。
 こうして旅が始まった。
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