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30.思わぬ展開に

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 ギルドを出た二人はメイン通りを歩いていた。

 いやー。
 この空気、困ったなぁ。

 横目に受付嬢を見るとシクシク泣きながら歩いているのだ。

 この状況、どうしろと!?
 俺にはハードルが高い!

「そ、そうだ。腹空かないか?」

「…………ぅん」

「お、俺牛タンって食べたことないんだよ! 美味いんだろう!? 牛タンの店でいいか?」

「…………ぅん」

 牛タンののぼりが立っている所に入る。

「いらっしゃい! 3名様ですね。こちらにどうぞぉ」

 あっ。そうだった。
 後ろに蘇芳が居たんだった。
 ごめん蘇芳。忘れてた。

 メニューを見る。

『僕、これが良い』

 特上牛タン定食を指さす蘇芳。

 お前……この状況でよく食おうと思えるな?
 まぁ。俺も食うけど。

「なぁ、あんたは何食べる?」

「……あんたじゃない。赤口 茜(せきぐち あかね)」

「赤口さんは何食べる?」

「私も同じの」

 えっ?
 特上食べるの?
 気持ちがいい程遠慮がねぇぜ。
 逆に清々しいね。
 うん。

「わかった。すみませーん! この特上牛タン定食3つ下さい!」

「はいよ! ちょっと待っててなぁ」

 お店の人に注文が終わると話を聞く体制になる。

「それで、親がテイマーってのは聞いたが、なんでそんなにテイマーを毛嫌いする?」

「あの人のせいで家族が蔑まれてきたのよ。弱いからって力尽くで色々奪われたり家だって何回も変えたのよ? それでも行く所、行く所嫌がらせばかり……」

 顔を手で覆いながら悲痛な状況だったことを告白する。

「それなのにあの人は安い時給のバイトをニコニコしながらこなしていたわ。何でそんな顔ができるのか不思議でしょうがなかった! あんなに嫌がらせを受けていたのに」

「んー。子供と一緒に生活できてたから幸せだったんじゃないか?」

「そんな理由?」

「俺は2年前に両親が死んだとギルドから報告を受けた。その前もほとんど家にいなかった両親の事はあまり覚えていない。そんな親よりはどんな時も一緒にいてくれた親の方がいい親なんじゃないか?」

「それは、あなたからしたらでしょ?」

「たしかにそうだ。俺目線からの話でしかない。でもよ、親から何かされたことはあるのか? 殴られるとかご飯くれないとか」

「ないわ。むしろご飯は自分の分を差し出してきていたわ。怒られたことも数えるくらいしかないわ」

「周りから嫌がらせされてもさ、親が味方でいてくれたわけだろ? それでもどうにか安い時給でも働いて養ってくれていたんだろ? いい親じゃねぇか」

 沈黙の時間が流れる。

「はい。おまちどう」

 ご飯が運ばれてきた。
 それぞれの席の前に料理が置かれる。

「うおっ! うまそう! いただきます!」

『いただきます』

 一口食べると弾力のある牛タン。
 噛み応えがあり、噛めば噛むほど旨味が出てくる。

「美味い!」

 ガツガツ食べていると。

「私はずっと親を恨んでいたわ。あの人がいるから私は嫌がらせを受けるんだと」

「でもよぉ、俺に言った言葉は無意識に言ってたんだろ? 同じように無意識で周りに嫌味を言ってたんじゃないのか? そうじゃないと言い切れるか?」

 再び牛タンを食べる。
 ウンウンと頷きながらご飯をかきこむ。

◇◆◇

 茜は昔を思い出していた。

「茜ちゃん、あっちで鬼ごっこして遊ぼうよ」 

「私が負けるからいやよ」

「茜ちゃん、おままごとしよう?」

「そんな子供っぽい遊びいやよ」

「茜ちゃん、服買いに行かない?」

「あんたと服の趣味合わないからいやよ」

◇◆◇

 自分の言っていた言葉を思い出すと、誘われても自分から拒否していた。
 そしてその後決まって嫌がらせを受けていた気がする。

「……今思えば、私が原因だったのかも……」

「だろう? 今気づけてよかったな」

「えっ?」

「んっ? だってそうだろう? まだまだ人生は長い。今気づけたから改善できる。これから友達沢山作って遊べばいいじゃねぇか」

 ニカッと笑って話すと、顔を赤くする茜。
 下を見て俯いている。

「どうした? 早く飯食った方がいいぞ? 覚めるって」

「うるさい! わかってるわよ!」

 急に怒りだす茜。

 なんだコイツ!?
 超情緒不安定じゃねぇか!

 パクッと食べると。

「ん……おいひぃ」

「美味いよな? 俺の奢りだ。好きなだけ食べろ」

 すると急に手を挙げた。

「すみません。ビール貰えますか?」

「ちょっ! 3つください!」

「生ビール3つね? はいよ!」

「お前、流石に図々しいぞ?」

「いいじゃない。好きなだけ食べていいんでしょ?」

「そりゃそうだけどよ」

 しばらくするとビールが運ばれてきた。

グビッグビッグビッ

 茜が凄い勢いで飲んでいる。

「おいおい! そんなに飲んで大丈夫か!?」

「あんた名前は?」

「言ってなかったっけ? 翔真だ」

「翔真、私の最初の友達になりなさい!」

「はぁぁ!?」

「私の事をこんなにズタボロにした罰よ」

「いやいや、むしろ話聞いてやってんじゃん」

「私と友達になるのが嫌なの?」

 目を潤ませて見つめてくる。

「泣くなって! わかったよ! なるよ!」

「ふんっ。チョロいわね」

 思わず歯を食いしばってコメカミが浮き出す。

「お前……ホントにいい性格してるぜぇ」

『翔真? 落ち着きなよ。ご飯食べよ?』

 蘇芳に慰められて牛タンに集中する。
 バクバク食べていると。
 茜も食べ始めた。
 心なしかにこやかに見える。

『茜ちゃんさ、素直じゃないだけだと思うよ? かわいいじゃない?』

「そうか?」

「何そこでコソコソ話してるの?」

「あぁ? これからどうするかって話をしてたんだよ」

「これからって? ダンジョンに潜るんじゃないの?」

「そうなんだけどよ。親が本当に死んだのかっていうのを情報集めながら全国周ろうと思ってんだよ」

「そうなの!? 友達になったのにどっか行っちゃうわけ!?」

「まぁ、そのうちな。今はもう少し満喫してから行こうかなって感じだけど」

「そう」

 急にシュンとしやがって。
 少しは可愛い所もあんのな。

「でも、ここはダンジョンが多い。少し攻略してから行ってもいいかなと思ってるけど」

「南はもっとダンジョンが多いわよ?」

「そうなのか?」

「日本の中心。塔狂町は一日10のダンジョンが発生する最高難易度の町よ。中心に近づくほど、ダンジョンの発生頻度は上がっていくわ」

「そんなに発生するのか!? どうやってダンジョンを食い止めてるんだ!?」

「こぞって凄腕たちが攻略してるって話よ?」

「へぇ。すげぇな。そこでなら父さん達の情報も得られるかもな」

『ちょっと楽しみだね。ダンジョンめっちゃ攻略できるからランクがすぐ上がるね』

「まぁ、生きていくのも大変な状況なんだろうけどな。それにしても茜は詳しいな?」

「私はギルド職員よ? そんなこと調べつくしてるに決まってるじゃない」

「今までそんな受付嬢いなかったから」

「えっ? そうなの?」

「あぁ。自分で聞き込みしてた」

 頭に手を当ててため息をついている。

「どうした? 疲れちゃった?」

「いえ。北のギルドの受付嬢は仕事ができないのね?」

「俺はそんなもんとしか思ってなかったぜ」

 急に眼を見開いて手を叩いた。

「どうした?」

「いいこと思いついたわ!」

 はいー。なんか嫌な予感。
 コイツぜってぇ変なこと言う。

「私も旅に協力するわ! 友達だしいいでしょ!?」

「いやいや。男と魔物の2人旅についてきたって面白くないぞ?」

「だって……私の最初の友達になってくれるって言ったのに……」

「またウソ泣きか? 俺はもう騙されないぞ」

 ポロリ、ポロリと涙が頬をつたう。

 我慢だ。コイツは嘘つきだ。
 旅に付いてくるなんて無理だって。

 下を向き、ポタポタと涙がズボンを濡らす。

「だぁぁぁ! 泣くなよ! わかったよ! 考えてみるから!」

「ホント!?」

 いい笑顔である。
 コイツマジかよ。
 やべぇ奴だぜ。
 おぉ神よ。
 コイツとは行きたくありません。
 怖いです。

『翔真、ホントにいいの?』

「いや、考えるだけだ」

「やった! ギルドマスターに報告する!」

「そうだな、ギルドマスターと相談しよう」

 そう話している傍から嬉しそうに飯を食っている。

 そんなに嬉しそうな顔しやがって。
 こっちの身にもなれよな。

 一人の旅の仲間が増えるのか?

 えぇ? どうする? 逃げるか?
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