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36.一斗の装備

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「今日は一斗の装備買いに行こう!」

 一斗がEランクにランクアップした翌日にみんなで集まっていた。

「ついてきてくれるんですか?」

「あぁ。蘇芳が居れば役に立つかと思ってな」

「有難いです! じゃあ、ローブから見に行っていいですか?」

「あぁ、行こうぜ!」

 翔真達のような前衛は防具屋なのだが、ローブは専門のローブ屋がある。
 ただの服屋と一緒じゃないかと思うのだが、違うのだ。

 ローブの中にはただの布のものも勿論あるのだが、上級の魔法職は魔法が付与されている物を買うのだ。

 今回はその、付与されたローブが目当てだ。

「自分はここのローブ屋でお世話になってて……」

 外見は少し古い感じのする店だ。
 しかし、中に入ると手入れがしっかりとされていた。

『ここは、良い店だね』

 蘇芳が言うから間違いないんだろうな。
 たしかに、一個一個ローブが見やすいようになっている。
 ホコリも被っている様子もない。

「こんにちは。今日は魔力付与されてるローブを買いに来ました」

「お前さん、どうしちまったんだ? シングルマジシャンがそんな付与したローブ着るなんてないことだよ? まず、金がないだろう?」

 心配そうに言う老婆。

「あーすみません。コイツのパーティーメンバーなんですが、付与付きのローブっていくら位するんですか?」

「そうさねぇ。この子は頑張ってるからねぇ。普通のローブも値引きしてたよ? 付与付きのローブってんなら、定価は90万さ。でもねぇ、50万でいいよっていうとこさ。あんたが金払ってくれるのかい?」

「有難うございます。大丈夫。僕、ダンジョン攻略したんですよ? これでいいですか?」

 懐から50万をドンと出す。

「こりゃ珍しい事もあるもんだ! ホントにシングルマジシャンがダンジョンを攻略したとな!?」

 思わず口を挟んでしまう。

「お言葉ですが、一斗の魔法は一流です。シングルマジシャンでも、属性が1つでも、他で十分補えてます!」

「ハッハッハッ! あんた、いいパーティーに入れたんだね。良かったじゃないか! そのメンバーのお前さんの天職はなんなんだい?」

「テイマーです」

「ハッハッハッ! 最弱どうしでパーティーでダンジョン攻略したと!? こりゃ、時代が動くね!」

「俺達は、強いですよ!」

「あぁ、そんなんだろうさ。ダンジョンを攻略してきたってのに傷一つない。強い証拠だ。あんたの髪の色見てるとちょっと前に来た強い剣士を思い出すよ」

「この色の髪の人が来たんですか?」

「あぁ。3年前くらいだったかね。塔狂町に向かうと言ってたねぇ」

「その人のパーティー名分かりますか?」

「あー。何だったかねぇ。何とかの翼って言ってたような……」

「空翔ける翼じゃないですか!?」

「あぁ、なんかそんな名前だったねぇ」

「塔狂町に行ったんだ! 手掛かり掴んだぞ!」

 一斗が不思議そうに聞いてくる。

「その人は何なんですか?」

「俺の両親のパーティーなんだ。2年前に死亡したとギルドから連絡があったんだ。けど、遺体は発見されていない」

「でも、解放者だったらダンジョンで全滅も……」

「あぁ、有り得る。でも、ハッキリさせたくて旅を始めたんだ」

「そういう事だったんですね。自分も協力しますよ。塔狂町には行ってみたいし、行きましょう!」

「あぁ! 目的地が決まった! 塔狂町に行くぞぉ!」 

「はい!」

『良かったね! 手がかりを見つけられて!』

「あぁ。まぁ、急がなくてもいいかなって思ってる。もう2年も前に死亡したとされてるんだ。今更急いで行ってもしょうがないだろ」

『たしかにね』

「貴重な情報を有難うございます!」

「あんた。頑張るんだよ!?」

「はい! 行ってきます!」

 ローブ屋を出ると、次はつえの店に行く。

 一斗を先頭に歩き、しばらくすると裏路地には言った。
 かなり複雑な道を行く。
 何やら強面の輩が店の前に立っている。

「おい! お前達止まれ!」

 一斗は被っていたフードを捲ってその輩を見る。

「自分ですよ。お久しぶりです」

「あぁ! 一斗さん! 杖を見に来たんですか!?」

「えぇ。ダンジョンを攻略しまして、お金が出来たもので……」

「はい! こちらへどうぞ!」

 一見さんお断りなのだろうか。
 あんな強面のやつを店先に置いてどうしようと言うのだろうか。

 建物の中に案内されると、カウンターに座っている小さい女性。

「こんな所に何の用だい? もう杖はあるだろう?」

「新しい魔力伝達率の高いものが欲しいんです」

「フンッ! シングルマジシャン如きがかい?」

「おい! あんた、シングルだろうが、金があれば問題ねぇだろ?」

 思わず口を挟んでしまう。

「ここにある杖は私の子供みたいなもんさ。生半可な理由では売らないよ?」

 コイツ何様だ!?
 コノヤロー!

 前に出ようとすると、一斗に止められる。

「僕は、シングルですが他の部分で補っています。マルチマジャンには負けません。その為にも、魔力伝達率が高いものが必要なんです!」

「ふーん。まぁ、いいだろう。しかし、金があるのかい? ダンジョンも攻略できて無いんだろう!?」

「昨日ですが、攻略しましたよ? その前にも攻略しました。このパーティーは最強です」

「そう。最弱がつよがりを」

ドンッ

 カウンターに100万を叩きつける。

「これで、買えるのをください」

「……ホントに金があったのかい。そりゃ悪かったよ。ミスリルが1番いいんだが、それは、1000万はする。エルダートレントのがいいかねぇ」

ドンッ

「これで、1番良いやつ出してくれ」

「あらあら、金なあるなら出そうかね」

 このババア金払えば結局出すんじゃねぇかよ。
 俺達のこと馬鹿にしやがって頭にくるぜ。

「使えるか分からないけどねぇ。どうぞ」

 いらない言葉を投げかけながら杖を出してくる。
 ホントにコイツ……!

「使いこなしてみせます。翔真さん、有難うございます」

「いいんだ。行こうぜ」

 嫌気がさしていたので杖屋を出る。

「飯食いに行くか?」

「そうですね。でも、装備揃ったんで……」

「あぁ、茜誘いに行くか!」

 裏路地を出ようとすると、目の前に大きな影が立ち塞がった。

「いい杖持ってんな? 寄越せ」

 周りも囲まれる。

「一斗、これきっとあの店のばばあの指示だぞ?」

「えぇ!? そうなんですか?」

「恐らくな。一斗をなめてるんだろう。町中では魔法使用禁止だからな」

「そんな!」

「金だけとって杖を戻そうとしたんだろう。だか……相手が悪かったな?」

「ゴチャゴチャうるせぇな」

「なぁ、お前みたいなやつらって情報交換とかもしないのか? この前も虫けらみたいにたかってきて潰したばかりなのに……」

「うるせぇって言ってんだ! やれ!」

 囲んでいる奴らはそれぞれ武器で攻撃してくる。

「あぁ、こいつらの方がクズだったわ。丸腰相手に武器を使うか……一斗、そこで見てろ?」

 容赦なく剣で突き刺しに来る。

 最小限で避け、カウンターに拳をお見舞いする。

ズドォンッッ

 殴られたやつは壁に埋まる。

「お前ら、皆こうなるんだからな?」

「「「「「「うおぉぉぉぉ!」」」」」」

ズドドドドドドドドドドッ

 迫ってくる敵を右に左に順番に壁に埋め込んでいく。

 処理し終えて振り返る。

「残ったの、お前だけだな?」

「バケモンがぁぁぁ!」

 大きなハンマーを振り下ろしてくる。

ズンッ

 片手で受け止める。
 地面が少し沈むが、問題ない。

「かりぃな」

 そのままハンマーを横に投げ。
 渾身の右拳をお見舞する。

ゴギャッ

 顔面に当たり顔が陥没する。
 そしてそのまま吹っ飛んで行った。

「これで、もう来ねぇだろ。それはそのまま持っていこう」

「はい! 有難うございます!」

「当たりめぇだ。パーティーメンバーだろ?」

「はい!」

 明日にはこの町を去る。
 その前に、茜を誘わねば。
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