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1.ゲームへの誘い

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「やめ!」

 そこには沢山の道着を着た人が集まり、右往左往している。
 二階には客席があり、ほぼ満席にうまっている。

 そこから見える試合は四箇所。
 田の形に区切られてそれぞれの試合を行っている。

 その中の一つに白い帯をして汗を拭いながら戦っている青年がいる。

「やめ!」

 両者が止まると中央へ行き、向かい合う。
 数瞬のうちに判定が下される。
 
 赤旗が2つ、白旗が1つあがる。

「赤!」
  
「「有難う御座いました!」」

 互いに礼をして健闘を讃え合う。
 後ろにすり足で進み枠の前で止まる。
 
「「押忍!!」」

 次は審判やこの場所への礼をするのだ。
 これで、この青年の試合は終わった。

 自陣に戻って椅子に深く座り俯く。
 額から汗が流れてポタッと地面を濡らした。
 
 高校二年になって初めての試合。
 一年間、鍛錬に打ち込んだ。
 師範には必ず勝てると太鼓判を押されて臨んだ試合だった。

「また勝てなかった……」

 その顔は暗く。
 絶望している様に見えた。

 ◇◆◇

 次の日

 大会が終わって疲労の残ったまま登校である。
 落ち込んでいても学校に行くあたりが真面目だ。

 「おう! おはよー! 疾風はやて! 昨日は、なんつうか。お気の毒さま。あんだけ師範には勝てるって言われてたのにいざ負けると落ちるよなぁ」

 馴れ馴れしく声を掛けてきたのは同じ道場の門下生。岩田いわた 悠人ゆうと。コイツとは、色々ある腐れ縁だ。

「はぁ。自分が嫌になるんだよなぁ。一年の時から全然勝ててねぇんだもんなぁ」

「まぁ、そう落ち込むなって! 今がスランプなだけだって! お前ならやれる!」

 悠斗はいつも俺を励ましてくれる。
 俺の心の支えになっている。
 
「こうまで勝てないと落ち込みもするさぁ」

「なーに辛気臭い顔してんの?なんかあったわけ?」

 心の支えといえばもう二人いるんだけど。
 朝からズケズケと心を抉ってくるこの女が、高校に入って同じクラスになったんだけど。
 よく絡んでくる、吉村よしむら 朝陽あさひ

 コイツはスタイルが良くて人当たりが良いもんだから男子からの人気もある。
 しかも、女子からも人気があってカースト上位の人間だ。

 正直一緒に居ると注目されるから嫌なんだが。

 「言い過ぎ……疾風……可哀想」

 このいつも優しくて大人しい結陽ゆうひにはいつも癒されている。
 と言っても見た目は朝陽とあまり変わるところがない。
 朝陽の双子の妹の吉村よしむら 結陽ゆうひである。

「いやー! コイツが昨日の試合で勝てなくてへこんでるんだよ!」

 悠斗が無神経に俺の肩を叩いて笑っている。
 人が凹んでるのにそんなに笑うやつがいるか?
 仮にも親友だろうよ。

「なんだぁ! そんな事でそんな辛気臭い顔してんのぉ? そんな顔してたら、勝てるものも勝てないわよ!」

 他人事だと思うからそんなこと言えんだよ。
 俺の身にもなってみろっつうの。
 道場ではエースだなんだと言われてんのに一回も勝てない。それが、どんなに申し訳なくて辛いか。

「うるさいなぁ。こっちは真剣に悩んでんだよ。簡単な話じゃねぇのぉ」
 
「中学の時はいい所までいったんでしょ? 何かをキッカケに勝てるようになるかもしれないじゃない!」

 それが見つかれば俺だって苦労はしない。

「いつキッカケが見つかるかわかんねぇじゃんか。俺だって早くきっかけが欲しいもんだ」

 不貞腐れた顔をして机に顔を突っ伏す。
 もう放っておいてくれよ。
 俺は空手やっていけないんだ。

「疾風さ、夏休みになるじゃん? CWO一緒にやってみよーぜ!? モンスターと戦ったりさ、プレイヤーとのPVPでランキングバトルとかもあるんだぜ!」

 CWOとは最近流行っているVRMMOゲームCombatWorldOnlineの略称である。
 VRMMOとはフルダイブ型のゲーム。
 数年前に開発されてからほぼゲーム市場を独占している。

 学生はほぼやっていると言っても過言ではないだろう。
 どうだろうなぁ。
 悠斗がやってるならやってみてもいいかなぁ。

「んー。そうだなぁ。空手の修練ばっかりで小遣いは貯まってるし、やってみようかなぁ」

 実際、金は実はかなり溜まっていて。
 小さい頃から空手ばかりして来た俺はお年玉やらお小遣いを使うことがなく。
 通帳には数十万あるんじゃないだろうか。

 このゲーム、実はかなりの金額がするらしいのだ。
 それはそうだろう。
 ヘッドギアつけて脳に干渉するような装置が安いわけがないよな。

「それいい……私達もやってる……一緒にやろ?」

 結陽に誘われたらやりたくなってしまうな。
 結陽達もやってんのか。
 それならゲームでもみんなで居れるし。

「あれ? この前聞いた時やってないって言ってたじゃーん?」

「悠斗とは……なんか……危険。疾風……居ないと……やだ」

 おおう。それは嬉しいけども。
 可愛いな。結陽。

「疾風がいればいいんだったら、パーティー組んで一緒にやろうぜ!」

 悠斗……ドンマイ。
 なんか可哀想になったわ。

 キーンコーンカーンコーン

「また後でだな。疾風、ゲーム届いたらLEINしてくれよ? 明日から夏休みなんだからよぉ。 で、インしたら最初の街の噴水に集合な! いいな?」

「わかったって! うるさい!」

「ホントに……騒がしい」

 悠斗の扱いはいつも酷いんだよな。
 でも、こういう時に仕切ってくれるから俺は助かってる。

 家に帰ったら早速頼むか。
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