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31.十蔵の指導 現実編4

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「一旦休憩にしようかのぉ」

「押忍!!」

パンッパンッ

「何か御用でしょうか?」

 影からまた執事が現れた。

「飲み物を二人分持ってきてくれんか」

「畏まりました」

 しばらくするとスポーツドリンクを持って戻ってきた。

「うむ。やはり運動の後はこれじゃのぉ」

 そういうとゴクゴク飲み始めた。
 俺も一緒にゴクゴクと飲む。

 体に冷たい感覚が流れていき、火照った体を冷ましていく。

「しかし、お主も体力があるのぉ。全然バテんではないか。十色より体力があるんではないかのぉ」

「そんな事ないですよ。十色さんなんて一日中戦っていられそうです」

「ふぉっ。ふぉっ。ふぉっ。それもそうじゃのぉ。スイッチの入ったあやつはしつこいのなんの。何度倒しても起き上がってきてゾンビみたいじゃ」

 すると後ろから気配がした。

「じいさん、ゾンビは酷いんじゃないかい?それが孫に言うことかね」

「ふぉっ。ふぉっ。ふぉっ。優しい言葉が欲しいならそれらしい態度をせんか」

「ハッハッハッ!それは無理なこったさ!」

 笑いながら十色さんが言い捨てる。

「じいさんに扱かれてどれだけ成長したのか、私が見てやろうじゃないのさ」

「お願いします!」

 俺は体に気合を入れると立ち上がって二人で向かい合う。

「号令だけかけてやるかのぉ」

 二人が見つめ合い、構え合う。
 先程までとは違うピリついた空気が痛い。

 静寂の中、集中力を高める。
 気配が良く感じ取れる。
 動きが全てわかりそうだ。

「始め!!」

「シッ!」

 俺は先手必勝で突きを繰り出す。射程ギリギリの所から上段突きだ。

 すんでのところで、首を振り避けられる。

「エイヤァ!」

 十色さんが空いている胴体へ蹴り込む。
 サッと後ろに下がり躱す。
 躱されるのをお構い無しに攻めてくる十色さん。

 更に間合いを詰めてくる。

「ハァッ!」

 強い踏み込みの後に鋭い中段突きが放たれる。
 回避が遅れた。
 なんとか腕を差し込む。

 バキッ!

「フッ!!」

 この隙を見逃さずに回し蹴りを放つ。
 綺麗に決まるかに見えたその時。

 十色さんは更に懐に踏み込んで来た。
 蹴りは当たった。だが、クルリと蹴られた勢いで回転すると。

 ガヅンッ

 俺の頭に衝撃が走った。
 訳の分からないうちに死角から攻撃を受けた。
 吹き飛びながら倒れ込む。

ズシャァ!

「それまで!」

「っつぅっ」

 頭にモロにくらった。
 すごい衝撃が頭を襲ったため、痛みが響いている。

「すまん。大丈夫か?暑くなってしまってつい本気になってしまった」

 十色さんが頭を掻きながら近づいてきて謝る。

「本気を出させたことは嬉しいです。しかし、最後は何をされたか分かりませんでした……」

「ふぉっ。ふぉっ。ふぉっ。そうじゃろうて。高校生相手に十色が大人気なく裏拳なんか使うからじゃ」

「裏拳ですか…………」

 全然見えなかったし、気配も感じられなかった。落ち込むなぁ。

「高校生の競技では使わんのではないか? 意表を突かれたのじゃ。攻撃を受けてもしょうがないじゃろう」

「だれか、冷やすものを持ってきてくれんか。」

「ただ今!」

 ドタドタッ

 屋敷の使用人が慌てて冷やすものを取りに行っているみたいだ。
 なんだが申し訳ない気持ちになる。

「ちと、座って待っておれ」

「はい」

 すぐに使用人が戻ってきた。

「冷やしながら少し話をしようかのぉ」

 三人で座りながらゆったりと、話をする。

「今日は楽しかったわい。ワシの娯楽に付き合ってくれて感謝するぞい」

「いえ、俺も色々ためになりました」

「ふぉっ。ふぉっ。ふぉっ。そいつは良かったのぉ。これで疾風君は一皮剥けたと思うのじゃ。さっきの十色との手合わせを見てもわかるのぉ」

「いえ、まだまだです」

 謙遜しながら言うと。

「謙遜するのはいいがのぉ。自分の実力は客観的に図らなければならんぞ。お主は十色に一瞬でも本気を出させた。それはすごい事じゃ。十色は今世界で戦っているのじゃからの」

「えっ!? そうなんですか!?」

「まぁな。まだ頂きには行けていないがな」

 驚く俺に胸を張ってドヤ顔する十色さん。

「今日の所はこんな所で終わりにするかのぉ」

「はい! 有難う御座いました!」

 深く礼をする疾風。
 この日でどれだけ自分が成長できたのか分からないくらい色々あった。

 またリムジンで送られ帰路に着く。

 帰って殴られたあとを見た母さんが騒いだのはナイショの話。
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