交渉人 枝川裕樹

アンクロボーグ

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最終章  人柱(ひとばしら)〈終〉

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2ヵ月後、6名の交渉人が地下600メートルの特殊地下空間に集まっていた。

気休めのエアコンが作動している。茹るような大気の中、交渉人6名と大勢の技術者たちが狭いフロアの中で作業を続けている。



「人柱の様子はどうか!」



枝川は、再度、政府機関の責任者に問う。



「はい。最終チェックを済ませ準備は完了しています。個別カプセル内に厳重に固定。先ほど起動させました。もちろん、さとられてはいません」



枝川と他の交渉人は、目を閉じ、これまで殉職した人柱143名が眠る慰霊碑のある方角に向かい少しの間、祈る。



今回の南関東に発生するとみられる大規模な地震のクラスであれば通常、人柱の殉職者の数は、100名以上に昇る。

何百倍もの人を助けるとは言え、決して許されない数だ。



日本が独自に行っている交渉人を使った自然災害対策システムは、全世界も注目している。

これまでも人柱には、人権問題で猛烈な国際的に避難を受けてきている。



これを受け、もちろん日本政府、気象庁も、対策、検討を続けていて、今回からは、全く違う対処法でのアプローチを開始している。

それは、人間の人柱を使わない方法の導入。

つまり、まだまだ完全な技術ではないがクローン人間の培養法を応用した方法だ。

特殊な環境で育てられた、極力、意識や人格を持たないとされる半人類と言うべき生物を人柱にするのだ。



はたしてこの模造人間、ニセモノの人間の人柱で地震生命体をあざむく事が出きるのだろうか。



枝川を含め6名は、専用のプラグスーツ姿で異様な大きさのヘッドセットを頭部に装着。



反応液剤を注入されトランス状態を維持。6人は共に自分の意志で大きく深呼吸した後、何やら一言二言お互いに会話を交わした後、おのおのマザー装置に目覚めるように指示を出した。



6体の脳は直結させた無数の電極弁を少しずつ時間差で開かせながら交渉を開始した。



「強く…強く… 大きく…大きく…  美しい…」




   《 お わ り 》
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