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第三章

犠牲者のひとり

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 翌日、朝ご飯を頂いた後でもう一度お地蔵さまを見に行くと、最初に見た印象とは違って見える事に気付く。
どこが、という事もないが、母の書いたものを全て読んだからなのか、目の前のお地蔵さまが神秘的というか少し恐ろしいものにも見えてくる。

 ここで願い事を繰り返し唱えて、それが叶った時はどんなに嬉しかっただろう。
ただ、その裏で不幸に見舞われる動物や人もいた。
このお地蔵さまには、いったいどんな力があるのだろう............。

 美乃利さんが怪我をしたという場所らしき部分を見ても、その欠けが本当に怪我の所なのか。
そう思いたい美乃利さんが、勝手に身代わり地蔵として認識してしまっただけなのか。

 僕はひと息つくと、その場を離れた。

 お地蔵さまから門までの距離が長くて、ついでにこの辺りを散歩でもしようかと思い、足を延ばしてみる。

 門を抜けて西の方角へ歩き出すと、敷地の角は近くてソコを右に曲がった。

 車で来た道からは気付けなかったが、少し先には川が流れていて、カーナビで見るよりは幅の広い河川だった事に気付く。
夏休みも終わって遊ぶ人も見かけないが、きっとここなら釣りが出来るんじゃないかと思った。
おじさんや母さんは子供時代にこの川で遊んだのかな。でも、ちょっと深そう。

 山間の川なんかでは、キャンプやバーベキューをする人もいるが、ここはそういう感じでもない。
ただ、釣りなら出来そうだとは思った。

 川沿いに少し歩いて行くと橋が架かっていて、流石にその先に進むと迷いそうなのでやめる事にする。
ただ、遠くからでも見える神社の赤いのぼり旗が目に入った。あそこに神社があるのか.....、と思いつつ家の方に踵を返すと戻る事にする。

 
 家に戻ると、美乃利さんが遅めの朝ご飯を食べていた。

「あ、おはようございます。」

「おはようございます」

 僕の顔を見ると、少しバツの悪そうな表情になる。化粧っ気のない素顔を見られて恥ずかしいのか。

 僕は「ちょっと散歩をして来たんだけど、川の向こうに神社があるんだね。」と美乃利さんに云う。

 美乃利さんは急いでパンを流し込むと、「そこまで行ったの?」と驚く。

「いや、橋の向こうにのぼり旗が見えて。ちょっと遠そうだから戻ってきたんだけど。」

「ああ、.....思うより遠くはないんだけど、あそこの神社は階段の上で。結構登って行かないといけないから。」

「そうなんだ?....ああ、だから遠くからでものぼり旗が見えたんだ。」

 僕は納得する。のぼり旗に目が行って神社の鳥居とかは気付かなかった。

「あの川で釣りとかした事ある?結構深そうだけど。」

 美乃利さんが食器を運ぼうとしている傍で訊いてみると、「ないない!....あそこは溺れた人が出てるから近付かないですよー。橋の上から釣り糸垂らしてる人いるけど、他所から来た人で。この近所の人は川に近付かない。」ときっぱりとした口調で云った。

「そうなんだね?.....まあ、川で泳ぐのは禁止している所が多いから。でも、釣りなら出来るかと思ったんだけどな。」
  
「川の流れは表面上分からないけど、中は結構早くって。あっという間に流されちゃいますよ。」

 美乃利さんは経験した事がある様な言い方だった。

「中学生の時に先輩が一人流されて。......まあ、死にはしなかったけど。」

「そう、助かって良かったね。」

「その人、私をいじめた人で。」

「え?」

「ほら、うちにあるお地蔵さまを不気味だと云って。見た事もないくせに........。」

「............それって、.........」

 僕は背筋が強張るのを感じた。

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