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第五章

そこで生きるという事

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 部屋の空気が変わった気がした。
峰子さんの口元が強く結ばれて、一瞬ギリッという音が聞こえた後でゆっくり開かれる。

「もう、こんな風習を終わらせなければ。そう思った家長は、子供をお地蔵さまとすり替えて差し出した。そして女の赤ちゃんを隠しました。」

「......え、」と声を出してしまう僕と水野さん。

「だけど、それを許さなかった村の人たちによって女の赤ちゃんは見つけられると人身御供にされてしまった。」

 その言葉にショックを受ける僕たちには、もう声を出す力も残っていなかった。
それを峰子さんに語らせる事は、本当に良かったのだろうか。僕らの好奇心が招いた結果、深く沈め込んだ過去の異形を曝け出させている。峰子さんの心情を推し量ると、此処で話を終わらせた方がいいのでは、と思う。でも、僕の気持ちとは別に、峰子さんは僕に伝えたい事があったようで、話はまだ続いた。

「....不思議だったのは、本当にその後川が氾濫する事がなくなったという事。そして、娘を救えなかった家長は、その後身代わりにしたお地蔵さまの側で命を経ってしまいました。」


 頭が追いついていかない。
世界的にも人身御供という生贄を捧げた話は聞いた事がある。ただ、そんな話は昔話で、実際にあったのだろうかと疑っていた。
なのに、今こうして聞いているのは本当にあった話。しかも僕自身の先祖が関わった話だ。

「人身御供の風習はそこで終わりを告げたんですね。」と、やっとの思いで峰子さんに訊ねる。

「.......終わった、というか、その後戦争が始まって、世の中は変わっていきましたし、村に残ったのは女や子供、老人ばかりでした。そして新たな橋の工事が軍によって行われ、それ以来氾濫はしなくなったみたいです。」

「.....良かった。......でも、それまでに亡くなった人の事を思うと.......人間は惨いですね。」

 僕が話す隣で、水野さんはすっかり憔悴しきっていた。じっと顔を伏せると目蓋を閉じたままだ。

「お地蔵さまの事は?......何があったんでしょうか。」

 峰子さんに訊ねる。

「あのお地蔵さまは、真壁家の墓のあるお寺へ納めようとしましたが、住職に断られて。赤子の身代わりに作られたお地蔵さまは、真壁の家で祀ってやってほしいと.....。それであそこに祀られた訳ですが。」

「まだ何かあったんですか?」と、僕が訊く。

「ご存知の通り、あれはいわく付きのお地蔵さまでした。そして、私の父方の女児があれに願い事をした時、それが叶ったと言います。ただ、叶う願いは生死に関わるようなことばかり。.......願った人を生かす代わりに......誰かの命が奪われました。」

「...........」

 もう声も出なかった。水野さんもじっと俯いたまま。
窓際のカーテンだけが、話の内容を打ち消すように風になびいて光を揺らめかす。

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