胸に宿るは蜘蛛の糸

itti(イッチ)

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どうしてこんな気持ちに?

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 食器を洗って片付けた後で着替えをしていると、アニキの服、あげるから持って帰ってええから、と言われてTシャツは着たまま。ジーンズだけを穿き替えて部屋を出ると、中条さんに礼を言った。

「じゃあ、そろそろ俺は帰りますけど。…中条さん、今夜は店どうするんですか?」
 なんとなく昨日の今日で、ひとりで店をまわすのはどうかと思った。

「そうやなぁ、昨日も暇やったし、とりあえず喫茶店の方の手伝いに行ってから決める。まあ、ハルくんはゆっくりお母さんに甘えておいで」

「甘えるって、……そんな歳じゃないですから」
 まるで俺を子供扱いするので腹がたった。

「まあええやん、親は居る間に甘えておかな。お母さん、大事にしたってな」
 そう言うと、中条さんは俺のバッグを持って手渡した。
 
 こういう言い方をされると返す言葉がない。
 なぜか、親の話をする時の中条さんは、少し影があるというか、寂し気な様子だった。
 俺はバッグを肩に担ぐと、じゃあ、失礼します、と言って玄関に向かった。このまま靴を履いて帰るだけなのに、なぜか後ろ髪を引かれる思いで、振り向くと中条さんの顔を見た。

「ん?どした?」 
 首を傾げて俺を見る中条さんに、「大丈夫ですか?中条さん、休み間なにしてるんですか?お兄さんと一緒ですか?実家に帰るんですか?」と矢継ぎ早に質問をしてしまう。このマンションで、ひとり過ごす中条さんを想像すると、なんだか不憫になった。

「なんや急に…、オレの事心配してくれるん?オレ、ハルくんより二つも年上やのに。ひとりでのんびりするから、大丈夫やで」

「ひとりなんですか?実家は?」

「……そんなん、ハルくんが心配する事と違うし、ハルくんはゆっくりしておいで」
 そう言うと、俺の身体の向きを変えさせて、背中を押しだした。
 押される様に玄関に下りると、仕方なく靴を履く。俺の心配は余計なお世話なのか。

「じゃあ、帰ります。戻ったら電話入れますね」

「うん、じゃあね」

 もう一度中条さんの顔を見ると、ペコリと頭を下げて俯き加減にドアノブを掴む。ノブを回してドアを開けると、急に背中に衝撃を受けて、中条さんの手が俺の腹にまわされた。

 一瞬、胸がギュッと掴まれた気がして動けなかった。
 俺は中条さんの手をグッと握ると、振り返って向き合った。中条さんの瞳は何故か濡れていて、それが余計に切なくて、自分でもどうしてなのか分からないが、中条さんの身体を抱き寄せると力を込めて抱きしめた。
 
 俺の頬が中条さんの髪に埋もれると、シャンプーのいい香りが鼻をくすぐる。

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