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衝撃の一言
しおりを挟む頭の整理がつかず、呆然とベッドに腰掛けたまま壁を見つめていた。
どういう事?
俺が母さんに言ってしまったから?
頭の中ではそんな疑問がぐるぐると巡り、しばらくすると胃を掴まれるような痛みを覚えた。
俺は、携帯電話を握り締めると、立ち上がって玄関に向かった。無意識のうちに鍵を持つと、扉を開けて外に出て施錠し、そのまま走ってトンちゃんのマンションを目指した。
何を言おうかなんて考える間もなく、身体が動いてしまい、ただ必死に走った。
自分のした事が、いかにトンちゃんを傷つけたか、今更だが悔やんでも悔やみきれない。俺の嫉妬心が招いた結果だ。
マンションの階段を二段飛びに駆け上がり、部屋の前まで来ると息を整えた。右手を胸に当て、ゆっくり呼吸をすると、徐々に身体は楽になった。
インターフォンに伸びた指先は、小刻みに震えてしまう。一瞬、ドアを開けてくれなかったらどうしようか、と躊躇するが、思い切って押してみた。
はい、と返事が聞こえ、「俺、開けてくれる?」と答えれば、間が空いて、俺の鼓動は早くなる。
しばらくすると、玄関のドアが開けられて、漸くトンちゃんの顔を見る事が出来た。
「…トンちゃん」と、名前を呼んで部屋に入ったが、背を向けられて俺の顔を見ようとしない。
丸まった背中を見つめながら、俺は「ごめんなさい、俺がした事はみんなを傷つけてしまった。トンちゃんと父さんの仲を疑って、くだらない嫉妬心からあんな事を言ってしまった」と謝った。
うつむいていると、トンちゃんの身体はこちらに向き直って、俺の頭に手を置いた。
「ハルキが悪いんじゃないよ、言ったろ?元はと言えばオレが悪かったんだから。ずっと姉さんを騙してて、ハルキにも嫌な思いをさせちゃったし」
手を外すと、ゆっくり歩き出して、テーブルの上に置いてあったコップを持ってキッチンに行った。
俺は後を追っていくしかなくて、トンちゃんの後ろから「さっきの言葉は何?」と尋ねた。
「…そのまんまの意味だよ」
「俺と会わないって…、顔も見たくないって事?」
ちょっと泣きそうな声になってしまったが、トンちゃんに食いつくように言った。
「オレたちは間違ってしまった。…ハルキと関係を持つべきじゃなかったんだ。オレが弱いばかりに、ハルキまで巻き込んでしまった」
トンちゃんの横顔が辛そうに歪む。
「巻き込まれてなんか…、俺はトンちゃんの事が好きだったんだよ!俺がトンちゃんを欲しがったんだ!」
「違う!!…オレはハルキと正和さんを重ねていた。ハルキの中にいる正和さんの面影に……」
そう言うと、トンちゃんはガクッと膝を折って床に倒れ込んだ。
俺は、頭を殴られた様な感覚になって、跪くトンちゃんの姿を見下ろしたまま動けなかった。
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