胸に宿るは蜘蛛の糸

itti(イッチ)

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理解出来ない

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 考えてみれば、いくら独身だからといって、俺たち家族と一緒に暮らすトンちゃんは、少し変だと思う。
俺がトンちゃんの歳なら、早く独りで自由に暮らしたいと思うんじゃないだろうか。それに、彼女もいなさそうだし。

「ねえ、トンちゃんって、いつまで此処に居るの?」

 何気なく母に訊いてみた。

「いつまでって、......結婚するまで?」

「結婚相手いるの?あんまり男らしくないじゃん、小さいしさー。」

「ハルキ!.....身長の事は気にしているんだから云わないのよ。それに、うちの家系は小柄なの。小柄でもちゃんと彼女が出来れば結婚するでしょ。....多分。」

「多分、て......。まあ、トンちゃん、顔はいいもんね。俺の小学生の時の女子は、ハルキくんのおじさんカッコイイって云ってたよ。顔がどっかのアイドルに似てるとか。」

「そう?.....まあ、顔はいいのよ、お母さんに似て。」

「姉弟だけど、ちょっとそこはどうかな~。身長が低いのは一緒だけどさ。」

 俺が母に云うと、一瞬ムッとした顔でこちらを見た。

「まあ、俺はいいんだけど、その内彼女とか連れて来た時に邪魔っていうか....。あ、でも平日は遅いからいいか。」

「ハルキ、なに云ってんのよ。アンタこそ彼女いないくせに。徹の心配より自分の心配しなさい。高校入ってから遊んでばっかりじゃない。」

「いや、余裕で勉強出来るし。試験だって上位の成績だよ。えーと、俺は学年10番。」

「あの子は?ハルキと仲のいい『一条祐斗』くん。席順で前と後ろだったでしょ?」

 母の云っているのは、同級生の一条の事。祐斗は同じクラスで席も近くて直ぐに仲良くなった。でも、向こうは帰国子女で、年齢は一年上なんだ。

「アイツは成績トップだよ。3番以内にいつもいる。けどさ、ホントは歳がいっこ上だし、狡くね?」

「....負け惜しみ。.....」

 たったひと言云うと、母は洗い物を終えてキッチンから出て行く。

 29歳になるトンちゃんとの暮らしが嫌なわけではないが、俺の中にずっと抱えている物が早くなくなるには、トンちゃんが此処を去るしかないのだと、そうぼんやりと思っていた。
父は益々忙しくなって、来年は青森の支社に単身赴任で行くという。あの、瞼を腫らして帰って来て以来、トンちゃんの帰りも遅くて、父がトンちゃんの部屋を訊ねる事もほとんどなくなった。

 俺が感じていた気配は、いったい何だったのだろう。
高校生になって感じるのは、大人は隠し事がいっぱいあるという事だけ。なんとなくそう思った。

 そして、俺たち子供の間にも、案外隠し事があるのだと知ったのは、17歳になってすぐの夏休みの事。

「オレさぁ、ハルキの事好きなんだよね。」

 離れの部屋でDVDを診ている時に、祐斗に改まって云われキョトンとした顔を向けてしまった。

「いや、俺も、祐斗の事は好きだよ。勉強教えてくれるし、気が合うし。好物も一緒だしな、たこ焼き。」
 
「.....たこ焼きは、大体のヤツが好きじゃん。むしろ嫌いなヤツの方がおかしいし.....。っていうか、そういう好きとは違くて!.....LOVEの方。」

「...........は?.....ラブ、.....?」

「そうだよ、オレ、ハルキの事愛してるんだ。」

「...............愛?」

「うん、」

 ................愛、と云われて首を捻った。



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