胸に宿るは蜘蛛の糸

itti(イッチ)

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閉じ込めた気持ち

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 結局、夜遅くに祐斗の両親が戻って来て、俺の話は途中のまま朝になると学校に行く時間となった。

 バスに揺られて学校に着くと、またありきたりな日常が待っている。
授業を受けて、昼休みには菓子パンを食って、放課後になると急に緊張し出す俺は、本当に意気地なしだ。

「今日は大丈夫なのか?もう流石に泊めてやれないぜ。」

 祐斗に云われて「分かってるよ」と頷いた。


 どうしたって家からは逃れられない。
母さんの顔を見るのが怖いなー.........


 祐斗からエールを送られて、ドキドキしながら家の前に着くと、暫く足が出なくて。一歩を踏み出すのが怖かった。でも、仕方ない。何か聞かれたらその時はその時。


 よし、と声を出して自分を鼓舞すると玄関へと向かった。

 玄関の扉に鍵がかかっている事を願いながら、ドアノブをカチャっと回せば、簡単に回って開いてしまう。

------いるのかよ~

 ちょっとビビりながらドアを開けて中に入ると、「ただいまー」と声を掛けた。


「おかえり」という母さんの声がして、俺は背中にツツーっと冷汗が流れる感覚になる。

 居間に入る前に台所に行くと、水を一杯飲んで息を整える。
鞄を抱えて居間に入ると、そこに座って居る母の姿があった。見る限りでは、怒っている様子はないが、小学生が宿題をしないで遊んでいるのとは訳が違い、怒られる内容が悪すぎた。


「あ、あの、.....祐斗の親、帰りが遅くてさ、昨日は俺がラーメン作って食べたんだ。」

 そんなどうでもいい事を告げると、「そりゃあ、ご飯まで食べさせてもらおうなんて、図々しすぎるでしょ。」と冷たい言い方をされる。確かにその通りなんだけど......


 仕方なく鞄を持って離れの部屋に逃げようとした俺に、「ハルキ、お父さんの何を知っているの?」と訊かれ心臓が飛び出そうになった。

 いきなりの確信をつく質問だ。
何て答えればいいのか。知らないと云ってしまおうか。一瞬の間に色々な言葉を巡らせるが、どれも納得させる言葉ではなかった。

「それは、.......」

 俯いたまま言葉が途切れた俺は、じっとしているしかなかった。

「ハルキも子供じゃないから、色々分かる年頃よね。......それはお母さんも同じよ。ハルキの云いたい事は分かってる。だけど、それは云わないで欲しいの。」

 母さんの言葉にショックを受けた。すべて知っている様な口ぶりで、でも、父さんの相手の事までは知らないだろうと思ったが、敢えて自分から云う必要もないのかも。

「かあさん、........俺、変な事云ってごめん。」

「.........いいのよ。いずれ気が付く時が来るかもって、私もどこかでは諦めていたんだから。」

 母さんはそう云うと、身体を起こして立ち上がり台所の方へと消えて行った。

 母さんは、トンちゃんと父さんの事を気付いていたのか?まさか、とは思うがそれを確認する方法もない。
俺に何も云うなという事なら、そうするしかない。父さんにも何も云わない事にしよう。

なんとなく心の中はモヤッとしたままだけど、全てをさらけ出してしまうのは怖い気がした。



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