胸に宿るは蜘蛛の糸

itti(イッチ)

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旅立ち

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 祐斗が帰った後で、俺は自分がどうしたいのか改めて考えた。大阪の大学に入って、トンちゃんに近付く。
それが一番の希望だし、たとえ受け入れられなくても、自分の気持ちは変わらないと伝えたい。傍に居たいと願うのはいけない事なんだろうか?


 母さんと食事をしながら、合格した後の事を話した。

「まあ、受かってくれるのは嬉しいけど、なんだか寂しいよねぇ。別に地元の大学でもいいのに。でも、大阪ならトンちゃんもいるし少しは安心かな。」

 そういう母に『実はトンちゃんを狙っているんだ』とは口が裂けても云えない俺。「母さんも仕事に力入れられるし、これからは自分の事も考えたらいいよ。」と云っておく。

「一応、トンちゃんには晴樹の事話しておいたから。アパートも探すって云ってくれてる。」

「俺、トンちゃんのアパートの近くがいいな。そしたらご飯とか食べに行けるし。」

「ヤだわー、あんたトンちゃんをなんだと思ってるの?そんな都合のいい事ばっかり云わないでよね。晴樹がご飯作ってあげるんならいいけど......。サラリーマンは大変なのよ、特にトンちゃんみたいな仕事はね。」

「.....分かってるよ。別にトンちゃんに甘えようとか思ってないし.....。」

 本当のところは一緒に住んでみたいと思っていた。でも、トンちゃんはいい顔しないだろうな、とは思う。
ここを離れて行く時に見せた顔は、寂しいというか、安堵したような表情にも見えた。俺と離れる事が、トンちゃんンの願いだったんだろうか。


* * * 

 時は移り、無事に大学へと進学が決まった俺。祐斗は喜んでくれた。
そして、大阪に引っ越しをする時には手伝うと云ってくれ、俺も嬉しかった。

 高校の卒業式を終えると、友人たちは直ぐに大学生活の準備に入り、寮へ入ったりアパートへ引っ越しをしたりした。俺もまた準備を始めると、日程を知らせようとトンちゃんへ電話を入れてみる。

 夜遅い時間なら繋がるだろうと、携帯へ電話を入れてみる。が、電話口の声はものすごく重いものだった。

「ごめん、電話ダメだった?」と、ちょっと焦りながら聞く。でも、トンちゃんは「大丈夫だよ。なに?」といってくれた。

「母さんからアパートが決まったって聞いて。トンちゃんには面倒な事をお願いしてごめんなさい。ありがとう。......で、次の土曜に引っ越しをしようと思うんだけど。」

「.....土曜、....あー、午後なら手伝いに行けるけど。」

「あ、手伝いは祐斗がいるからいいんだ。トンちゃんは来れる時に来てくれたら。トラックの手配も済んでるから気にしないでいいよ。一応報告しておこうと思ってさ。」

「そうか、.....なんか早いな。あんなに小さかった春樹が......。祐斗くんが手伝ってくれるなら安心だな。また行く時に電話するよ。」

「うん、......楽しみにしてる。じゃあ、....」

 電話を終えると、力が抜けたみたいになってベッドの上で横たわった。胸がドキドキしてる。うまく話せたか自信がないけど、でもアパートに来てくれるって云った。それは嬉しい。

 トンちゃんには迷惑をかけてしまうかもしれないけど、俺は近くに居られるってだけで幸せを感じる。

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