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なんでもない日
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授業の途中、不意に横の席にいた吉村に声を掛けられてハッとした。
「本宮くん、どうかした?」
「え、あ、……何が?」と、咄嗟に返したが、吉村は覗き込んで俺の顔を見ると「遠くの一点をジーッと見てるから」と云った。
「ああ、いや、なんでも無い。ちょっと寝不足でぼーっとしてただけ」
俺は、そういうと笑みを浮かべてもう一度正面に顔を向けた。教壇では講師が難しい社会情勢の話しをしている。
正直、トンちゃんと父親の事が気になって、昨夜はよく眠れなかった。何度も寝返りを打っては、もう二人の関係は終わったのだと言い聞かせた。なのに、すぐさま不安は押し寄せる。
「そうだ、明日の夜空いてる?」
吉村は小声で訊いてくる。平日の夜はバーのバイトがあるから「あー、バイト」と云ったら、そうか、と諦めの表情をした。
直感で、前に云っていた合コンの誘いだと思った。こういう時、友達を作る機会でもある合コンに出るのもいいが、残念ながら女子の相手は苦手だし、男友達が増えて特別いい事なんかあるのかと思ってしまう。
「本宮くんのバイトが無い日、今度教えてよ。一緒に遊びに行きたいから」
「…….あ、うん、わかった」
吉村にそう返事をすると、真面目に授業を聞き始める。
授業のノートを取りつつ、俺は勉強にイマイチ身が入っていない事を実感していた。
トンちゃんの近くに居る、ただそれだけの為に選んだ大学。これという将来の夢もないまま、とにかく留年だけはするまいと心に誓う。
バイトの時間になると、いつもの様に厨房に居て中条さんが指示した料理を作る。
明日はトンちゃんが寄ってくれるというので、内心浮かれていたのかもしれない。授業中はあんなに不安な感情が押し寄せていたのに、ゲンキンなものだ。
「これ、美味いな。ハルくんのオリジナル?」
「あ、はい。山芋があったので、前にうちのおふくろが作ったの思い出して」
酒のつまみになると思って作ったのは、短冊状に切った山芋に明太子をまぶして少しの醤油を垂らした上に鰹節を掛けただけの簡単なもの。酒を飲まなくても、俺はこれをご飯に乗せて食べていた。山芋のシャキシャキ感が好きだった。
「ええやん、コレ。ハルくんてお母さんの事好きなんや?」
そう聞かれるとなんだか照れてしまうが、「まあ、嫌いではないです。ちょっと口うるさいけど」と云った。
「ええなあ、オカンの事好きな男は優しいと思うで。ハルくんも優しそうやもんな」
「はは、どうでしょうか」
俺は料理を大きめのタッパーに入れると冷蔵庫にしまう。俺を褒める中条さんが、小鉢に残った料理を眺めながら、ほんの少し悲しそうな顔をしたのが気になる。が、客が入り出すとまた慌ただしい仕事に戻り、あっという間に夜は更けていった。
「本宮くん、どうかした?」
「え、あ、……何が?」と、咄嗟に返したが、吉村は覗き込んで俺の顔を見ると「遠くの一点をジーッと見てるから」と云った。
「ああ、いや、なんでも無い。ちょっと寝不足でぼーっとしてただけ」
俺は、そういうと笑みを浮かべてもう一度正面に顔を向けた。教壇では講師が難しい社会情勢の話しをしている。
正直、トンちゃんと父親の事が気になって、昨夜はよく眠れなかった。何度も寝返りを打っては、もう二人の関係は終わったのだと言い聞かせた。なのに、すぐさま不安は押し寄せる。
「そうだ、明日の夜空いてる?」
吉村は小声で訊いてくる。平日の夜はバーのバイトがあるから「あー、バイト」と云ったら、そうか、と諦めの表情をした。
直感で、前に云っていた合コンの誘いだと思った。こういう時、友達を作る機会でもある合コンに出るのもいいが、残念ながら女子の相手は苦手だし、男友達が増えて特別いい事なんかあるのかと思ってしまう。
「本宮くんのバイトが無い日、今度教えてよ。一緒に遊びに行きたいから」
「…….あ、うん、わかった」
吉村にそう返事をすると、真面目に授業を聞き始める。
授業のノートを取りつつ、俺は勉強にイマイチ身が入っていない事を実感していた。
トンちゃんの近くに居る、ただそれだけの為に選んだ大学。これという将来の夢もないまま、とにかく留年だけはするまいと心に誓う。
バイトの時間になると、いつもの様に厨房に居て中条さんが指示した料理を作る。
明日はトンちゃんが寄ってくれるというので、内心浮かれていたのかもしれない。授業中はあんなに不安な感情が押し寄せていたのに、ゲンキンなものだ。
「これ、美味いな。ハルくんのオリジナル?」
「あ、はい。山芋があったので、前にうちのおふくろが作ったの思い出して」
酒のつまみになると思って作ったのは、短冊状に切った山芋に明太子をまぶして少しの醤油を垂らした上に鰹節を掛けただけの簡単なもの。酒を飲まなくても、俺はこれをご飯に乗せて食べていた。山芋のシャキシャキ感が好きだった。
「ええやん、コレ。ハルくんてお母さんの事好きなんや?」
そう聞かれるとなんだか照れてしまうが、「まあ、嫌いではないです。ちょっと口うるさいけど」と云った。
「ええなあ、オカンの事好きな男は優しいと思うで。ハルくんも優しそうやもんな」
「はは、どうでしょうか」
俺は料理を大きめのタッパーに入れると冷蔵庫にしまう。俺を褒める中条さんが、小鉢に残った料理を眺めながら、ほんの少し悲しそうな顔をしたのが気になる。が、客が入り出すとまた慌ただしい仕事に戻り、あっという間に夜は更けていった。
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