117 / 205
ぶり返す熱
しおりを挟む授業を終えて携帯を確認した。
今朝、中条さんに送ったメールの返事が来ているのか、それが気がかりで。熱は少し下がったはずだが、またぶり返してしまったんだろうか。医者にはかかったんだろうか。
メールを見れば未だに返事はない。返事がないと云う事は、直ったんだろうか?
俺はもう一度メールを送る事にする。今日のバイトがどうなるのかも分からなかったし、もしも中条さんの具合が悪いならマンションに行くしかないと思う。
「具合はどうですか?昨日の今日だし、店は休んだ方がいいと思いますが。とにかく一度連絡ください」
そう送って、バス停で暫く佇んでいると、携帯の着信音がピロン、と鳴った。
腰ポケットに入れた携帯を取り出してみれば、中条さんからの返信だった。漸く来たか、と開いて見れば、ごめんという文字の下に両手を合わせた絵文字。それから、体温計の映った写真が送られて来た。
体温計を見れば、38.6の数字。
「え、熱出てるじゃん!」と、おもわず声をあげた俺。
すぐに中条さんに電話を入れた。
メールをやり取りしている場合じゃない。
「中条さん、俺今からそっち行くんで、玄関だけ開けといてくれますか?」
電話に出たのを確かめると、すかさずそう云ったが、電話の向こうの中条さんから返事がない。
「中条さん?聞こえてます?」
耳を澄ませてみれば、ハアハアという息遣いが聞こえた。
「取り敢えず今から行きますから!!」
それだけ言うと、バスが丁度来て、俺は慌てて乗り込んだ。
いつもなら一旦アパートに帰ってから店に行くが、今日はそのまま中条さんのマンションに向かう事にする。
今の時間、あの店は喫茶店として営業している。俺は、一応中条さんの事をシマさんたちに知らせようと、店のドアを開けて中に入る。
「いらっしゃいませ」と、静かに笑みを浮かべるシマさんに、「すみません、今日は客じゃなくて。実は中条さんが昨日から熱を出しちゃって、俺、今からマンションに様子を見に行くんですけど、時間になったら店の戸締りをお願いしてもいいですか?」と云った。
「あら、大変だ。ジョウちゃん身体だけは丈夫なのに。風邪でもひいちゃったのかな」
シマさんは、困った様な表情で俺を見ると云う。
「取り敢えずマンションに行ってみます」
「そうだね。あっ、そうだ、ちょっと待ってて」
シマさんがそう云うので、カウンターの横で待っていると、厨房の方から顔を出したクロさんが手に袋を下げて出てくる。白いビニールの袋に入っているのは、リンゴやオレンジやバナナ。それから続いてシマさんが出てくると、「コレ、熱さましに使って。ビニール袋に入れておでことか首とか、脇に挟むといいから。水分を沢山とる様にしてね」と袋いっぱいの氷を保冷用のバッグに詰めてくれていた。
「ありがとうございます。じゃあ、行ってきます。中条さんの様子は又明日報告するんで」
俺は両手に袋を下げると、ふたりにお辞儀をして店を後にした。
シマさんたちの優しさが、俺の胸にグッと伝わってくると、ものすごく心強かった。
12
あなたにおすすめの小説
Innocent Lies
叶けい
BL
アイドルグループ『star.b』のリーダーを務める内海奏多。
"どんな時でも明るく笑顔"がモットーだが、最近はグループ活動とドラマ出演の仕事が被り、多忙を極めていた。
ひょんな事から、ドラマで共演した女性アイドルを家に送り届ける羽目になった奏多。
その現場を週刊誌にスクープされてしまい、ネットは大炎上。
公式に否定しても炎上は止まらず、不安を抱えたまま生放送の音楽番組に出演する事に。
すると、カメラの回っている前でメンバーの櫻井悠貴が突然、『奏多と付き合ってるのは俺や』と宣言し、キスしてきて…。
平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)
優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。
本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。
ハンターがマッサージ?で堕とされちゃう話
あずき
BL
【登場人物】ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ハンター ライト(17)
???? アル(20)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
後半のキャラ崩壊は許してください;;
はじまりの朝
さくら乃
BL
子どもの頃は仲が良かった幼なじみ。
ある出来事をきっかけに離れてしまう。
中学は別の学校へ、そして、高校で再会するが、あの頃の彼とはいろいろ違いすぎて……。
これから始まる恋物語の、それは、“はじまりの朝”。
✳『番外編〜はじまりの裏側で』
『はじまりの朝』はナナ目線。しかし、その裏側では他キャラもいろいろ思っているはず。そんな彼ら目線のエピソード。
【完】君に届かない声
未希かずは(Miki)
BL
内気で友達の少ない高校生・花森眞琴は、優しくて完璧な幼なじみの長谷川匠海に密かな恋心を抱いていた。
ある日、匠海が誰かを「そばで守りたい」と話すのを耳にした眞琴。匠海の幸せのために身を引こうと、クラスの人気者・和馬に偽の恋人役を頼むが…。
すれ違う高校生二人の不器用な恋のお話です。
執着囲い込み☓健気。ハピエンです。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
【完結】 男達の性宴
蔵屋
BL
僕が通う高校の学校医望月先生に
今夜8時に来るよう、青山のホテルに
誘われた。
ホテルに来れば会場に案内すると
言われ、会場案内図を渡された。
高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を
早くも社会人扱いする両親。
僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、
東京へ飛ばして行った。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる