胸に宿るは蜘蛛の糸

itti(イッチ)

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ぶり返す熱

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 授業を終えて携帯を確認した。
 今朝、中条さんに送ったメールの返事が来ているのか、それが気がかりで。熱は少し下がったはずだが、またぶり返してしまったんだろうか。医者にはかかったんだろうか。

 メールを見れば未だに返事はない。返事がないと云う事は、直ったんだろうか?
 俺はもう一度メールを送る事にする。今日のバイトがどうなるのかも分からなかったし、もしも中条さんの具合が悪いならマンションに行くしかないと思う。


「具合はどうですか?昨日の今日だし、店は休んだ方がいいと思いますが。とにかく一度連絡ください」

 そう送って、バス停で暫く佇んでいると、携帯の着信音がピロン、と鳴った。
 腰ポケットに入れた携帯を取り出してみれば、中条さんからの返信だった。漸く来たか、と開いて見れば、ごめんという文字の下に両手を合わせた絵文字。それから、体温計の映った写真が送られて来た。

 体温計を見れば、38.6の数字。
「え、熱出てるじゃん!」と、おもわず声をあげた俺。

 すぐに中条さんに電話を入れた。
 メールをやり取りしている場合じゃない。
「中条さん、俺今からそっち行くんで、玄関だけ開けといてくれますか?」
 電話に出たのを確かめると、すかさずそう云ったが、電話の向こうの中条さんから返事がない。

「中条さん?聞こえてます?」

 耳を澄ませてみれば、ハアハアという息遣いが聞こえた。

「取り敢えず今から行きますから!!」
 それだけ言うと、バスが丁度来て、俺は慌てて乗り込んだ。


 いつもなら一旦アパートに帰ってから店に行くが、今日はそのまま中条さんのマンションに向かう事にする。
 今の時間、あの店は喫茶店として営業している。俺は、一応中条さんの事をシマさんたちに知らせようと、店のドアを開けて中に入る。

「いらっしゃいませ」と、静かに笑みを浮かべるシマさんに、「すみません、今日は客じゃなくて。実は中条さんが昨日から熱を出しちゃって、俺、今からマンションに様子を見に行くんですけど、時間になったら店の戸締りをお願いしてもいいですか?」と云った。

「あら、大変だ。ジョウちゃん身体だけは丈夫なのに。風邪でもひいちゃったのかな」
 シマさんは、困った様な表情で俺を見ると云う。

「取り敢えずマンションに行ってみます」

「そうだね。あっ、そうだ、ちょっと待ってて」

 シマさんがそう云うので、カウンターの横で待っていると、厨房の方から顔を出したクロさんが手に袋を下げて出てくる。白いビニールの袋に入っているのは、リンゴやオレンジやバナナ。それから続いてシマさんが出てくると、「コレ、熱さましに使って。ビニール袋に入れておでことか首とか、脇に挟むといいから。水分を沢山とる様にしてね」と袋いっぱいの氷を保冷用のバッグに詰めてくれていた。

「ありがとうございます。じゃあ、行ってきます。中条さんの様子は又明日報告するんで」

 俺は両手に袋を下げると、ふたりにお辞儀をして店を後にした。
 シマさんたちの優しさが、俺の胸にグッと伝わってくると、ものすごく心強かった。

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