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中条さんの身体は
しおりを挟む俺の身体にまわした腕は、少しだけ遠慮がちに震える。弱っているから仕方ないか、と思いつつも、俺はいつまでこうしていればいいんだろう。
「中条さん、薬、飲まないと...」
「うん」
返事をすると自然に俺から身体を離す。
コップに水を注いで、振り返ると中条さんに手渡した。それを受け取ると、ゴクリと一口飲んで、俺が渡した薬の錠剤を飲み込んだ。
俺から離れたが、向き合った距離は50センチほど。動こうかどうしようかと思案すると、中条さんが急に「身体が汗でべたついて気持ち悪い」と云う。
確かに、ひとつにまとめた髪も首筋に貼りついている。
「風呂はダメですよ。昨日もそれでぶり返したでしょ?何なら濡らしたタオルで拭くだけにしてください」
俺は中条さんの背中を軽く押すと、寝室に戻る様に促す。とぼとぼとうな垂れながら、部屋に入ってベッドに腰を下ろしたが、座ったまま。
仕方なく、「じゃあ、タオル濡らして持ってくるんで、それで拭くだけにしましょう。着替えは自分で出してくださいよ」と云った。その途端、中条さんの顔がパッと明るくなる。
洗面所でお湯を出すとタオルを濡らし、それを持って寝室に向かうと、ベッドの脇で既に上半身裸の中条さんが待っていた。一応ベッドの上に新しい着替えが用意されていた。
「背中、拭きますから」と云って中条さんの背中にタオルを持って行くと、一瞬キュッと肩甲骨が上がったが、すぐに背筋を伸ばして気持ちよさそうに息をついた。
華奢な背中を拭きながら、「少し仕事をセーブした方がいいですよ」と云うと、「そうやな、ハルくんに迷惑かけたら悪いし、身体に負担の無い様にする。けど、Barはちゃんとやりたいねん。シマさんたちに店を提供してもらってるし、このビジネスは成功させたい」と力強く云った。
大学を卒業するのも大変なのに、その上仕事もやり遂げたいとは。今まで目標を持った事のない俺には中々理解しがたい。卒業すれば、嫌でも企業に入ってこの先何十年も勤めなきゃいけない。中条さんは卒業したらどうするんだろうか。
「ありがとう、前は自分で拭くし」と云って振り向くと、俺からタオルを取った。
「あ、ああ、はい。......もう一枚持って来ますね」
新しいタオルを取りに行き、もう一度濡らすと部屋に持って行った。
髪を解いて首筋を拭きながら、俺を見る目が少し色っぽい。男の上裸を見ても普通は気にしないだろうが、中条さんがゲイだと知っているから、俺がそういう目で見てしまうのがいけない。
新しいタオルをどうぞと渡すと、使い終わったものを受け取った。
既に冷たくなったタオルを持って、中条さんが拭き終わるのを待つ。と、立ち上がった中条さんが「ごめん、下も拭くからちょっと目ぇ瞑っといて」と云った。
「あ、...はい」
中条さんは全身を拭きたかったのか、と思い俺は後ろを向くと、バツが悪くて頭を掻きながらしゃがみ込む。
ちょっとだけ頭の中で中条さんの裸を想像したが、同時に申し訳ないと反省もした。そういう目で見てはいけないと思いながら、ゲイである中条さんの事が気になった。
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