胸に宿るは蜘蛛の糸

itti(イッチ)

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腕を引かれて

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 サンドイッチが運ばれてくると、ありがとうございます、とシマさんに手を合わせて美味そうな香りを堪能する。ここのパンは全粒粉のパンで、玉子も荒めに刻んだものをマヨネーズであえている。あっさりとした味わいに、添えられたピクルスはクロさんが自分で漬けているらしかった。

 コーヒーを口にするとホッとする。挽きたての味は俺みたいな素人が飲んでも格別だと思える。シマさんとクロさんをチラリと見ながら、同性でも好きな人と一緒に店をやり暮らしを共にするなんて羨ましいと思った。俺とトンちゃんはどうなるんだろう、なんて、そもそもトンちゃんが俺の事をどう思っているのかすら分からないのに...。



「ごちそうさまでした」
 シマさんにお礼を云うと、カウンターの中に居るクロさんにもお辞儀をする。

「ジョウちゃんの事、よろしくね。何かあったらいつでも相談に乗るし、力になりたいから」

 帰り際、シマさんにそう云われて、俺は「ありがとうございます。熱が下がって元気になれば、きっと明日にでも店を開けるって云いそうですし、まあ、暫くはちょっと時間を短くするかもですが。中条さんには、シマさんたちがそう云ってくれてると伝えますね」と云い店を出た。
 今更ながらに、中条さんは好かれているんだと思った。ちょっと変わった人にみえたけど、シマさんたちや店に来る常連客には慕われている。

 マンションに続く道を歩き、合鍵を取り出してエレベーターに乗り込むと中条さんの部屋に向かった。


 一応インターフォンを鳴らし、その後でドアのカギを開けて中に入ると「本宮でーす、おじゃましまーす」と声を掛ける。廊下は静かで、リビングに行くと隣の寝室のドアが開いていて、そっと中を覗けば中条さんが寝ていた。奥の方を向いているので、背中しか見えないが、声を掛けて起こしては悪いと静かに戻った。

 テーブルには俺が朝作った朝食の皿がそのまま置かれていて、ちゃんと食べた様で安心する。
 冷蔵庫を覗けば、飲料水もしっかり飲んだようだし、薬の箱も開けられていて、ちゃんと薬も飲んだことが分かりホッとした。

 中条さんが眠っていれば、俺は何もすることが無く、ソファーに腰を下ろしたもののぼんやりするしかなくて。ポケットから携帯を取り出すと、なんとなく時間つぶしの様にネットを見ていた。
 そんな時だ、寝室の方から電話の鳴る音がする。きっと中条さんがベッドの横に置いたままなのだと、そっと見に行った。案の定、身体を捻ると腕を伸ばして携帯を探す仕草。

「ここです」と、俺が携帯を取って渡すと、一瞬俺の顔を見てハッとした様だが電話に出た。

「あー、オレ。...うん、熱は下がった...ハルくんが居てくれるから、アニキは来んでええ。......うん、じゃあ」
 しわがれた声でそう云って電話を切ったが、どうやらお兄さんからの電話らしかった。

「お邪魔してます。すいません、驚かせたみたいですねぇ」と謝ると、中条さんはくるりとこちらに向き直り俺の腕をグイッと力任せに引っ張った。
 その勢いで、俺の身体が前のめりになって、ベッドの中条さんの上に被さる形になる。華奢な腰に手がいってしまい、焦って手を退けようとしたが、グッと掴んだまま離さなくて、俺はただオロオロとするばかりだった。
 

 
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