胸に宿るは蜘蛛の糸

itti(イッチ)

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喫茶店のバイトは...

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 いよいよ喫茶店のバイトが始まると、これまでの厨房だけの仕事では追い付かず、テーブルをまわってオーダーを取ったりレジ打ち迄しなければいけなくなった。

「ハルくん、これ2番テーブル」

 中条さんがサンドイッチを盛った皿を俺に寄越して云う。
 喫茶店のメニューを作るのは中条さんの役目になっていた。高校生の頃から作り慣れたものだから、今のところ俺が作るより早い。その為、必然的に俺は店に出ている時間が伸びた。

「お待たせ致しました」と云いながら、2番テーブルに注文の品を置くと一礼して戻る。
 この作業には漸く慣れた。若干の人見知りを発動させながらも、接客に慣れてくると初めの頃の疲れは感じなくなった。もともとこの店の客層は中高年が多かったし、サラリーマンはこの辺りのビルに勤める人が殆ど。

 たまに来る同年代の客は、多分同じ大学生だろう。2,3人で楽しそうに授業の内容について話していた。
チラリと目をやると、最近は吉村たちと遊ぶ事もなくなっていたな、と思い出す。学業以外は殆どをバイトの時間に費やしていた。トンちゃんの所にも行けていない。



 昼のランチ時間が終わると、店内も静かになって、中条さんから「ハルくん、休憩行ってええから」と声が掛かる。

「あ、はい...」
 
 休憩と云われ、俺はエプロンを外すと厨房の中に向かった。
中条さんは夕方からのバーの仕込みを始めている。

「仕込み、俺も手伝いましょうか」と云ったが、中条さんは口元をニコッとあげると首を振った。
「こっちはええから、部屋で休んできて。夜になったらハルくんに厨房入ってもらうし」

 分かりました、と返事をすると、厨房から出て行く。
 中条さんはランチの仕込みの為に早めに来ているし、俺が部屋で休んでいる間も喫茶店の仕事をしている。その上夜はバーの営業で深夜まで働きどおし。

 中条さんの部屋に向かいながら、ぼんやりとした不安が胸を刺す。
期日は決められているとしても、働きすぎなんじゃないだろうか。何もしなくても猛暑で体力が落ち気味なのに、ちゃんと睡眠が取れているのかも心配になる。


 中条さんの部屋に着くと、勝手知ったる他人の家状態で、エアコンを強に設定するとリビングの床に転がっている本や雑誌を片付け始める。中条さんが建築学科なのもあって、国内の建築物の本とか海外の有名なビルの載った雑誌なんかが読んだままの状態になっていた。

 付箋が貼ってあるページも多く、ちゃんと勉強をしている事に驚く。

 冷蔵庫から飲み物を取り出して、コップに注ぎテーブルに乗せるとソファーに身体を預けた。
たった3時間くらいなのに、立ちっぱなしは疲れてしまう。脚を伸ばし横たわると、身体も気持ちも解放された気になる。エアコンの冷気も広がって、気持ち良くなった俺は暫し瞼を閉じると眠ってしまった様だった。




 
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