[ジセイタイになった俺]

itti(イッチ)

文字の大きさ
24 / 53

24 アルミ箔のオンナ 6

しおりを挟む

 ドキリとした。
常々接する女性に対して、仕事上の付き合い以外の何物でもない気持ちとは違う、初めての感情。それが今、俺の中に宿った気がした。

「野嶋さん、……」
と、思わず何かを言いかけて、言葉に詰まる。

その先は、声に出してはいけない気がする。
なのに…

「今夜、時間あります?」
思わず出た言葉に、「…ぇ、はい、時間はありますけど。」と答える彼女。
戸惑いを隠せない顔で俺を見た。

「あ、別に変な誘いではなくて。エクセルで補助的な資料を作っておきたくて、教えて貰えたらと…」

そんな取って付けたような理由を言えば、「いいですよ。」と、快く返事をしてくれた。

「あ、りがとう…。じゃあ自分のパソコンで教えて貰っていいかな?」
「はい、どこでしますか?会社だと残業申請しないといけないですよね。」

そう言われて、そこまで考えていなかった事に気づいた。

「なら、……家に来てもらってもいい?あっ、変な誘いじゃないから‼」
慌てて言った俺の表情が可笑しかったのか、野嶋さんは口の前に手を持って来ると申し訳なさそうに笑った。

………ふぅー
女性相手にこんなテンパるのは初めて。
これまでは、異次元の生物の様に見ていたから淡々としていられた。

野嶋さんにだけは、何故か親近感を覚えるんだ。多分、恵に聞いた彼女がバイセクシャルであるという部分でそう感じるのかもしれない。

「腹ごしらえをするにはまだ早いけど、何か食べてからにしますか?」
俺が訊ねる。と、彼女は少し首を傾げてから「あー、だったら私、何か作りましょうか?」
そんな事を言う。

またドキリ、とした。

ちょっとヤバいね。
こういうの、口説き文句っぽくて…

けど、野嶋さんはきっとそんなつもりじゃない。彼女の性格がそう言わせてるんだ。

「中谷くんも帰って来たら一緒に食べましょうか。材料だけ買って置いたら、直ぐにできるので。」
にこやかに言いながら手元のバッグを肩に掛けると、俺の返事を待つ。

「あ、そうですね。なら、帰り道にスーパーがあるので。」

俺もそう言うと鞄を手にした。


なんとなく並んで歩くフロアの通路。エレベーターを待つ間、点滅する階の数字に目をやりながら、浮き足立つ感覚を抑え切れずにいた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

処理中です...