上 下
32 / 53

32 アルミ箔のオンナ 14

しおりを挟む
  バーの気怠い空気にも慣れてきた頃、神谷くんは突然立ち上がると俺の肩を掴んだ。

え?っという顔で下から見上げる俺に「 映画、観に行きましょう!ミニシアターで上映中の、ちょっと泣ける映画。あれ観て泣いたらスッキリするかも。 」と、そんな事をいう。


意外な発想に驚きを隠せない俺は、ただ思考が止まってしまった様に返事も出来ないでいた。

神谷くんの中では、俺がフラれて捨てられたって事になっている?
まさか、そんな.....

まだ早いよ。確かに恵は出て行った。
けど、それは暫く、って事でずっとじゃない。戻らないって云われた訳じゃないから.....。

「 あの、神谷くん....。俺、まだフラれてない。恵は帰って来ると思うよ、きっと。 」
大きな声で断言はできないが、俺たちの3年の月日がこんな一瞬で消えてなくなるはずは無い。
きっと今は頭を冷やして考えたいんだろう。俺という存在をもう一度好きになる事はありうる。まあ、キライと云われてもいないし。

「 ならいいんですけど.....。真琴さんが可哀そうになっちゃって。かといっておれが慰める訳にもいかないし。何か力になれる事があれば云ってくださいね。 」

「 ああ、ありがとう。取り敢えず今夜は酒を飲もうよ。 」

俺は神谷くんの気持ちだけ有難く受け取るとそう云った。
こういう時に同じゲイの仲間は有難い存在だ。それに、ノンケの男を好きになっているという共通点もあるし、今夜は神谷くんに色々相談してみたいと思った。


「真琴さんのカレシってどんなタイプです?」
そう聞かれても一言では……

「…そうだな…、好青年、て感じかな。真面目だし優しい。それに男前。」

「はは、それって身内びいきですよね。悪いとこないじゃん。真琴さんにはそう見えてるんだ?!熱いな~」

神谷くんはそう言って笑うとグラスの酒を飲み干した。それから俺の顔を覗き込む。

「真琴さんだって男前ですよね。っていうか美系だ。アッチ界隈じゃモテまくりだったでしょ?どうして一人に落ち着く気になったんです?」

不思議そうな顔をして訊かれると自分でも分からない。何がそうさせたのか……


しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

異世界迷宮のスナイパー《転生弓士》アルファ版

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:156pt お気に入り:584

規格外で転生した私の誤魔化しライフ 〜旅行マニアの異世界無双旅〜

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,442pt お気に入り:139

聖女召喚に巻き添え異世界転移~だれもかれもが納得すると思うなよっ!

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,455pt お気に入り:846

性愛 ---母であり、恋人であったあの人---

恋愛 / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:50

知人のくすぐり体験談

大衆娯楽 / 連載中 24h.ポイント:312pt お気に入り:4

“孤蝶”雑多ログ

BL / 連載中 24h.ポイント:35pt お気に入り:13

見捨てられた万能者は、やがてどん底から成り上がる

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:227pt お気に入り:4,173

処理中です...