[ジセイタイになった俺]

itti(イッチ)

文字の大きさ
37 / 53

37 アルミ箔のオンナ 19

しおりを挟む

 取引先へ着くと、担当が留守だという事でロビーの椅子に凭れて待つが、一向に現れなくて尻が痛くなってくる。

そういえば、電話の向こうで聞こえた社員たちの声が切迫していた事を思い出した。
いやーな気分だ。この仕事に就いて、建設会社の倒産とかは耳にした事もあるが、施工先の倒産はまだ経験が無い。
まさか、な...........


そう思って辺りをぐるりと見廻せば、自分と同じようにロビーで待つ人が多い。
いつもはそのまま事務所に通されて、ここで待つことも無いから普段からこんなに人が居たのかは分からなかった。
が、皆同様にソワソワしている様な......。
携帯を見る視線が真剣で、会社との会話をやり取りしている人の表情も冴えない。

俺の中にジワリと湧き上がる不安。これはもしかして................?

鞄の中からタブレットを取り出すと、まさかと思いながらインターネットの’官報’の破産の欄を見てみた。

...............え、ウソ...........


膨大な量の破産欄の中から見知った名前を見つけると、心臓がドクンと鳴った。
幸いにもこの会社ではない。しかし......施工をする実際の建造物所有者の名前がそこには記されていた。

そうか、それで慌てて手を引いた訳だ。
支払いが期待できない先に、時間と労力を掛けたくはないし最悪こちらが被る事になるかもしれない。

ストンと腑に落ちる事で、俺の中の焦りは軽減された。でも、このまま中途半端で終わる訳にもいかず、もうしばらくは担当者を待つ事にする。
きっと、彼らも先方の内情を知るために必死なんだろう。上に報告しなきゃならない。それが自分のせいでは無くても、お目玉を食らう事に変わりはなかった。

関連会社の内情を把握する事は、営業としては必須だ。直近の決算書をもらい内容によっては仕事量を変更する事もある。それほどまでにシビアな世界で生きているはずなのに......

最近の俺は恵の事はもちろんだけど、野嶋さんの事でも気を取られ過ぎていた。



いつまで待っても帰って来ない担当に、仕方なく会社を後にした俺は来た道をトボトボと戻り出した。
雑踏の中を悠々と歩いていたのが、今日はこの有り様。全く、人生どうなるかなんてわかりゃあしない。


- - - 
部長への報告が終わると、やっと肩の力が抜けた。

「お疲れ様でした。驚きましたね、関連会社の破産でこちらの仕事も無くなるとか。私、初めての経験ですよ。」


デスクに戻った俺に話しかける野嶋さんは、驚きながらも俺を労ってくれる。温かい目をして顔を見られると、変なものでゲイの俺でも気持ちが傾きそう。

「野嶋さんのコピー、結局使う事なかったけど、ありがとう。新幹線の中で気持ち切り替えられて落ち着いたよ。この工程表も無駄になってしまったけど、まあ、今の時点で分かって良かったかも。」

「そうですね、もっと進めていたら被害も大きかったですもんね。でも、こちらもこれから大変ですね。材料は確保している訳ですから.......。」

そう云うと少し顔を曇らせる。


「仕方ないさ。その分は別の仕事をとってくるしかない。なんとかなる。」
俺が肩を上げながら云うと、フッと口元を綻ばせる野嶋さんだった。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

処理中です...