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37 アルミ箔のオンナ 19
しおりを挟む取引先へ着くと、担当が留守だという事でロビーの椅子に凭れて待つが、一向に現れなくて尻が痛くなってくる。
そういえば、電話の向こうで聞こえた社員たちの声が切迫していた事を思い出した。
いやーな気分だ。この仕事に就いて、建設会社の倒産とかは耳にした事もあるが、施工先の倒産はまだ経験が無い。
まさか、な...........
そう思って辺りをぐるりと見廻せば、自分と同じようにロビーで待つ人が多い。
いつもはそのまま事務所に通されて、ここで待つことも無いから普段からこんなに人が居たのかは分からなかった。
が、皆同様にソワソワしている様な......。
携帯を見る視線が真剣で、会社との会話をやり取りしている人の表情も冴えない。
俺の中にジワリと湧き上がる不安。これはもしかして................?
鞄の中からタブレットを取り出すと、まさかと思いながらインターネットの’官報’の破産の欄を見てみた。
...............え、ウソ...........
膨大な量の破産欄の中から見知った名前を見つけると、心臓がドクンと鳴った。
幸いにもこの会社ではない。しかし......施工をする実際の建造物所有者の名前がそこには記されていた。
そうか、それで慌てて手を引いた訳だ。
支払いが期待できない先に、時間と労力を掛けたくはないし最悪こちらが被る事になるかもしれない。
ストンと腑に落ちる事で、俺の中の焦りは軽減された。でも、このまま中途半端で終わる訳にもいかず、もうしばらくは担当者を待つ事にする。
きっと、彼らも先方の内情を知るために必死なんだろう。上に報告しなきゃならない。それが自分のせいでは無くても、お目玉を食らう事に変わりはなかった。
関連会社の内情を把握する事は、営業としては必須だ。直近の決算書をもらい内容によっては仕事量を変更する事もある。それほどまでにシビアな世界で生きているはずなのに......
最近の俺は恵の事はもちろんだけど、野嶋さんの事でも気を取られ過ぎていた。
いつまで待っても帰って来ない担当に、仕方なく会社を後にした俺は来た道をトボトボと戻り出した。
雑踏の中を悠々と歩いていたのが、今日はこの有り様。全く、人生どうなるかなんてわかりゃあしない。
- - -
部長への報告が終わると、やっと肩の力が抜けた。
「お疲れ様でした。驚きましたね、関連会社の破産でこちらの仕事も無くなるとか。私、初めての経験ですよ。」
デスクに戻った俺に話しかける野嶋さんは、驚きながらも俺を労ってくれる。温かい目をして顔を見られると、変なものでゲイの俺でも気持ちが傾きそう。
「野嶋さんのコピー、結局使う事なかったけど、ありがとう。新幹線の中で気持ち切り替えられて落ち着いたよ。この工程表も無駄になってしまったけど、まあ、今の時点で分かって良かったかも。」
「そうですね、もっと進めていたら被害も大きかったですもんね。でも、こちらもこれから大変ですね。材料は確保している訳ですから.......。」
そう云うと少し顔を曇らせる。
「仕方ないさ。その分は別の仕事をとってくるしかない。なんとかなる。」
俺が肩を上げながら云うと、フッと口元を綻ばせる野嶋さんだった。
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