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48 何度でも引き合うよ 7
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野嶋さんの声はかなり掠れていて、あまり喋らせるのは可哀想だと思った俺は、「じゃあ、そろそろ。あまり無理しないでゆっくり治してから出勤すればいい。」と声をかけた。
「あ、はい。ありがとうございます。そうさせて頂きます。」
弱々しい笑みを浮かべ、彼女がこたえる。
元々静かなタイプではあるが、なんというか…
「あの、もう知られていると思うけど、僕達の事。」
急に隣にいた恵が、俺の肩に手をかけると話し始める。突然の事に、俺は恵の顔をまじまじと見つめた。
長居は良くないね、と言っていたのに…
「あ、はい。」
野嶋さんも少しだけ目を見開いて答えると、恵と俺の顔を交互に見た。
「今日、二人でお見舞いに来たのは野嶋さんに伝えようと思っての事なんだ。勿論病気の心配もしているんだけど。」
そう云って恵はもう一度俺の肩をぎゅうっと掴む。
そうだ、これは俺が話さなければいけないところ。
なんの為に恵と二人で来たのか。
「あの、玄関先でなんですから、中へどうぞ。」
「あ、すみません。」
結局、部屋へ上がり込む事になった俺たちは、台所にあるテーブルへ通された。
椅子は二つ。野嶋さんは奥から丸椅子を持ってくるとそこへ置く。
三人で顔を突き合わせるとなんだか落ち着かないが、先ずは報告をしたくて俺が身を乗り出す。
「今日、このまま恵が、…中谷くんが俺と一緒にマンションへ戻ると言ってくれてる。この前、野嶋さんには心配かけたけど、離れてみて本当に大事なものが分かった。」
「……良かったですね。……お二人の事は応援してます。羨ましいですよ、共に暮らせる人と巡り会えるなんて。」
野嶋さんは掠れた声でそう言った。
そこは本当に羨ましいと思ってくれている様で。
俺も嬉しくなった。
「こういう話、仕事仲間にするのもなんだけど……。でも、一人でも俺達の事を知っていて貰えるのはありがたい。」
「中谷くんが田代さんに惹かれるの、わかる気がします。」
「ぇ、……」
「田代さんて、仕事では結構強引な所があるんだけど、いざ好きな人となると弱気になるっていうか。もっと体当たりすればいいのに……ね、中谷くん?!」
「………ん、……確かに。前も僕が仕事で連日の様に深夜帰宅だった時、彼女が出来たんだと勘違いされて。それも中々言い出せなくてさ、公園に呼び出されたんだよね。」
「おい、……」
恥ずかしい事を思い出してしまい、我ながら本当に気の小さい男だと自覚した。
「……まあ、僕もちゃんと伝える事をしなかったから悪かったんだけど。……三年という月日を共に暮らして来て、どこかで暗黙の了解みたいな所があったのかも。互いに言葉足らずになってた。」
恵に云われて本当にその通りだと思った。
相手が気づいてくれるのを当然だと思っている所もあったな。
「初め、ルームシェアしていると聞いて、とてもいい友人関係だと思ったんですけど、中谷くんの態度でお二人の関係性が見えてきたんです。」
「……ァー、なんか僕、態度悪かったんだ??」
「うん、中谷くんは顔に出るタイプだよね。本人自覚ないかもしれないけれど。だから直ぐに気づいたの。」
「ぇ、じゃあ、………」
「はい、本当は前から気づいてましたよ。だから田代さんの口から本当の事が聞きたくて。」
「そうか……。」
「あ、はい。ありがとうございます。そうさせて頂きます。」
弱々しい笑みを浮かべ、彼女がこたえる。
元々静かなタイプではあるが、なんというか…
「あの、もう知られていると思うけど、僕達の事。」
急に隣にいた恵が、俺の肩に手をかけると話し始める。突然の事に、俺は恵の顔をまじまじと見つめた。
長居は良くないね、と言っていたのに…
「あ、はい。」
野嶋さんも少しだけ目を見開いて答えると、恵と俺の顔を交互に見た。
「今日、二人でお見舞いに来たのは野嶋さんに伝えようと思っての事なんだ。勿論病気の心配もしているんだけど。」
そう云って恵はもう一度俺の肩をぎゅうっと掴む。
そうだ、これは俺が話さなければいけないところ。
なんの為に恵と二人で来たのか。
「あの、玄関先でなんですから、中へどうぞ。」
「あ、すみません。」
結局、部屋へ上がり込む事になった俺たちは、台所にあるテーブルへ通された。
椅子は二つ。野嶋さんは奥から丸椅子を持ってくるとそこへ置く。
三人で顔を突き合わせるとなんだか落ち着かないが、先ずは報告をしたくて俺が身を乗り出す。
「今日、このまま恵が、…中谷くんが俺と一緒にマンションへ戻ると言ってくれてる。この前、野嶋さんには心配かけたけど、離れてみて本当に大事なものが分かった。」
「……良かったですね。……お二人の事は応援してます。羨ましいですよ、共に暮らせる人と巡り会えるなんて。」
野嶋さんは掠れた声でそう言った。
そこは本当に羨ましいと思ってくれている様で。
俺も嬉しくなった。
「こういう話、仕事仲間にするのもなんだけど……。でも、一人でも俺達の事を知っていて貰えるのはありがたい。」
「中谷くんが田代さんに惹かれるの、わかる気がします。」
「ぇ、……」
「田代さんて、仕事では結構強引な所があるんだけど、いざ好きな人となると弱気になるっていうか。もっと体当たりすればいいのに……ね、中谷くん?!」
「………ん、……確かに。前も僕が仕事で連日の様に深夜帰宅だった時、彼女が出来たんだと勘違いされて。それも中々言い出せなくてさ、公園に呼び出されたんだよね。」
「おい、……」
恥ずかしい事を思い出してしまい、我ながら本当に気の小さい男だと自覚した。
「……まあ、僕もちゃんと伝える事をしなかったから悪かったんだけど。……三年という月日を共に暮らして来て、どこかで暗黙の了解みたいな所があったのかも。互いに言葉足らずになってた。」
恵に云われて本当にその通りだと思った。
相手が気づいてくれるのを当然だと思っている所もあったな。
「初め、ルームシェアしていると聞いて、とてもいい友人関係だと思ったんですけど、中谷くんの態度でお二人の関係性が見えてきたんです。」
「……ァー、なんか僕、態度悪かったんだ??」
「うん、中谷くんは顔に出るタイプだよね。本人自覚ないかもしれないけれど。だから直ぐに気づいたの。」
「ぇ、じゃあ、………」
「はい、本当は前から気づいてましたよ。だから田代さんの口から本当の事が聞きたくて。」
「そうか……。」
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