上 下
19 / 53

19 アルミ箔のオンナ 1

しおりを挟む
  なんだろう、この胸騒ぎは……

「え、恵に何かあったの?どうして野嶋さんが?」
「あ、ごめんなさい、知っていると思って…」
「………何も聞いてなくて……、ごめん、後でまた。」

俺はそう言うと部長の元に向かった。
ずっと胸の鼓動は打ちっぱなし。口から出るんじゃないかって位に心臓は高鳴る。



報告を終えて自席に戻ると、野嶋さんが電話を受けていたので暫く待った。その間も俺は携帯電話に手を伸ばしては引っ込める。
メールで聞いてみようか。
でも、昨夜は何も言ってなかったし…
その後で彼女と会ったのか?

ダメだ、頭が混乱する。
チラリと後に向けた視線の端で、野嶋さんの受話器を持つ手に目が留まる。
細くてしなやかな指先は、派手なネイルもしていないのに輝いて見える。

…爪の形がいいな…

そんな細かい所に目が行くなんて…

気を取り直して前を向くとパソコンを立ち上げた。送った資料をプリントアウトしていると、野嶋さんの電話が終わったようで。
俺は「ちょっといい?」と耳打ちすると給湯室へ向かう。

こんな場所で女性と二人、話し込むなんて未だかつて経験が無い。
でも、今はそんな事にうつつを抜かしてる場合じゃなくて。

「あのさ、俺が中谷くんの同居人て事は知ってるんだ?……よね?」
「ええ、昨日聞いてびっくりしました。」
「あ、そう……。で?腕をどうしたって?俺は出張してたし、何も聞いてはいないんだけど。」

ちょっと言い方がキツかったかな、野嶋さんが俯いてしまった。
もっと冷静になれ。同居人として、普通に聞けばいいんだ。

「昨夜、偶然に駅の改札口で出会って。同じ電車だし、ホームに降りて行ったんですよ。そしたら、後から誰かにぶつかられて、中谷くん、階段から落ちたんです。」
「ぇ、えーッ!!そんな事を黙ってたのか、アイツ。」
言ったそばから(あ、)と言葉を飲み込んだ。
昨夜、俺が恵と電話で話してるのを悟られるかな。寝る前の声が聴きたい、なんて恋人みたいにって思われるかな…

「病院は行かなくてもいいって言って…。でも、ひょっとして打ち所が悪かったりしたら後で大変な事になるし。で、私が家まで付き添わせて貰ったんですよ。」

淡々と報告みたいに話してくれる。
でも、俺たちの部屋に入って来たって事は、ちょっとショック。俺がいる時でも嫌だけど、いない時に、なんてのはもっと嫌だ。

これは嫉妬、、、なんだろうか…。

しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

異世界迷宮のスナイパー《転生弓士》アルファ版

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:35pt お気に入り:584

規格外で転生した私の誤魔化しライフ 〜旅行マニアの異世界無双旅〜

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,160pt お気に入り:138

聖女召喚に巻き添え異世界転移~だれもかれもが納得すると思うなよっ!

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,528pt お気に入り:846

性愛 ---母であり、恋人であったあの人---

恋愛 / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:50

知人のくすぐり体験談

大衆娯楽 / 連載中 24h.ポイント:284pt お気に入り:4

“孤蝶”雑多ログ

BL / 連載中 24h.ポイント:28pt お気に入り:13

見捨てられた万能者は、やがてどん底から成り上がる

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:213pt お気に入り:4,173

処理中です...