物言わぬ家

itti(イッチ)

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頭が上がらない

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 白い壁に掛かった時計の針を見つめ乍ら、そろそろ限界を迎えた祐二はテーブルの上の缶ビールを掴むと、向かいで意気投合して話し込んでいる二人に言った。
「あの、そろそろ、僕帰ってもいいですか?」
 水野の好奇心は止まるところがなく、美乃利も都会で働くキャリアウーマンに憧れがあるのか、水野に心酔している様で話しが終わらない。3人で缶ビールを10本は空けてしまった。

「ああ、もうこんな時間。そうね、じゃあ奥村くんは帰っていいわ。明日、連絡するから迎えに来てね」
「え、......僕が迎えに?」
「そうよ、だって美乃利ちゃんの事心配でしょ?私たちが協力しなきゃ」
 意気揚々と語る水野に、祐二は返す言葉がなく「まあ、分りました」と頷くしかない。ここで拒否でもしたら、仕事に差し障りがある。水野にはいつも仕事で助けられていた。

「今日はありがとうございました。私が勝手に心配で来たのに、付き合わせる事になっちゃって......。でも、祐二さんと水野さんが一緒に探してくれたら心強いです。明日も宜しくお願いします」
 美乃利は祐二に顔を近付けると、そういって頭を下げた。
「ああ、まあ、明日は休日だし暇だからいいよ。じゃあ、帰るけど、水野さん後はお願いします」
「オッケー、じゃあ、おやすみ」
「おやすみなさい」

 祐二は少しふらつく足取りで玄関に行くと、静かにドアを開けて出て行った。住宅街には街灯が少なくて、広い通りまで出てタクシーを捕まえないと、と暗い深夜の路地を歩いて行く。さすがにコートを着ていても肌寒くて、合わせをグッと握りしめると大通りに向かった。


 土曜日の深夜という事で、タクシーは乗車しているものがほとんど。仕方なく家の方向に歩いて行く。
コンビニに差し掛かったところで、丁度降りる人がいたのか、目の前にタクシーが止まり、祐二は慌てて近づくと降りる人を待って運転手に声をかけた。
 車に乗り込むと、行き先を告げてシートに背中を預けふーっと息を吐いた。
美乃利の事は心配だし、何か力になれる事があれば、とは思うが.......
そもそも、知らない女性の事を探る様な真似をしていいのだろうか、と思う。誰にも知られずに失踪したかもしれないし、訳があって戻ってきたくないのかもしれない。岬志保という女性の事は何一つ知らないのだから。

 それに、水野が首を突っ込むと、謎は余計に深くなるような気がした。頼もしい人だが、探求心が強くて途中で止められない性格なのも知っていた。そのせいで元旦那の不倫も知ってしまったわけだし。許す事が出来れば離婚にはならなかっただろう。この件が簡単に解決して、岬志保が見つかればいいのだが、と祐二はぼんやりする意識の中で願っていた。
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