物言わぬ家

itti(イッチ)

文字の大きさ
44 / 60

疑惑ばかりが残って

しおりを挟む

 8畳間の山里の部屋は、大学生らしい感じで、学校で使う資料やら教科書、辞書などが机に並んでいる。それとは別に、動画編集のためのパソコンや機材が隅のテーブルに置かれていた。
その前に集まった山里を入れて5人の人間が、さっきからずっと息を殺す様に黙り込んでいるのは、水野の発した言葉によって、みんなの頭の中に“殺人”という二文字が刷り込まれているからだった。考えたくはないが、菅沼沙織だけが助かったという事実も、それを想像させてしまう。

「でも、農薬なんて飲ませる事出来ますか?飲んだ事ないし分からないけど、匂いや味が変だと気づくんじゃ?」
 山里がやっとの思いで口を開くと言った。
「確かに、普通は気づくよね。だけどさ、父親はかなりの酒を飲んでいる人で、母親も薬の影響で朦朧としていたとしたら?」
「…..どうだろう、分からないけど…..」
「それに、父親はともかく、実の母親まで殺す必要がある?間違えて飲んでしまったとか?」
「分からない….」
  結局、そこで行き詰まると、また沈黙が続いた。

「ここで悩んでても時間が過ぎるだけ。本人に聞いてみるしかないわ」
 水野は立ち上がると言った。
「えっ、菅沼さんに直接ですか?」と祐二は焦る。
「私が岬さんならそうする。彼女も疑問に思ったはずよ」
「ですが、もしとんでもない勘違いだったら、彼女を深く傷付ける事になりますよ」
 祐二が水野に向かって言うと、横で聞いていた美乃利が「私も聞いてみたいです。誤解だったら心から謝罪しますから。志保先輩が何処にいるのか確かめたい!」と、強く言った。
そこまで言われると、佐伯も祐二も受け入れるしかない。互いに顔を見合わせると、口をぎゅっと閉じて頷いた。

「遅くまでありがとう。じゃあ、私たちは帰りますね」
 水野は山里に礼を言って、みんなも頭を下げながら部屋を出て行こうとした。
「あの、ちょっと待ってください」
 山里は声をかけると、急いで机の引き出しから何かを取り出す。
「これ」と言って祐二に手渡したのは、手のひらに乗るサイズのボイスレコーダー。
「これ、使ってください。記録になると思うんで」と言う山里。
 その時、ふと祐二が「岬さんにも渡した?」と訊ねる。
「いえ、岬さんは仕事でも使うから自分で持っているらしくて。俺のはいらないと言ってました」

 祐二は水野の顔を見ると、二人が同じ事を考えているのが分かる。
「菅沼さんの話を岬さんは録音したかも」と、同時に言ってしまって、さらに焦りは増した。
「とにかく、今日はこれで。山里さんにはまた連絡させてもらいますので」
 そう言うと、水野は玄関に向かった。


 佐伯の車に乗り込んで、祐二は深いため息を吐く。
美乃利も、この先起こる事が良くない気がして、陰鬱とした空気に包まれていた。
「明日の夜、もう一度菅沼さんの部屋に行きましょう。そして、全てを話してもらおう」
 水野が覚悟を決めた声で言うと、一層車の中の空気は重いものとなった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

真面目な女性教師が眼鏡を掛けて誘惑してきた

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
仲良くしていた女性達が俺にだけ見せてくれた最も可愛い瞬間のほっこり実話です

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

【短編集】こども病院の日常

moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。 18歳以下の子供が通う病院、 診療科はたくさんあります。 内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc… ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。 恋愛要素などは一切ありません。 密着病院24時!的な感じです。 人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。 ※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。 歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。

処理中です...