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疑惑ばかりが残って
しおりを挟む8畳間の山里の部屋は、大学生らしい感じで、学校で使う資料やら教科書、辞書などが机に並んでいる。それとは別に、動画編集のためのパソコンや機材が隅のテーブルに置かれていた。
その前に集まった山里を入れて5人の人間が、さっきからずっと息を殺す様に黙り込んでいるのは、水野の発した言葉によって、みんなの頭の中に“殺人”という二文字が刷り込まれているからだった。考えたくはないが、菅沼沙織だけが助かったという事実も、それを想像させてしまう。
「でも、農薬なんて飲ませる事出来ますか?飲んだ事ないし分からないけど、匂いや味が変だと気づくんじゃ?」
山里がやっとの思いで口を開くと言った。
「確かに、普通は気づくよね。だけどさ、父親はかなりの酒を飲んでいる人で、母親も薬の影響で朦朧としていたとしたら?」
「…..どうだろう、分からないけど…..」
「それに、父親はともかく、実の母親まで殺す必要がある?間違えて飲んでしまったとか?」
「分からない….」
結局、そこで行き詰まると、また沈黙が続いた。
「ここで悩んでても時間が過ぎるだけ。本人に聞いてみるしかないわ」
水野は立ち上がると言った。
「えっ、菅沼さんに直接ですか?」と祐二は焦る。
「私が岬さんならそうする。彼女も疑問に思ったはずよ」
「ですが、もしとんでもない勘違いだったら、彼女を深く傷付ける事になりますよ」
祐二が水野に向かって言うと、横で聞いていた美乃利が「私も聞いてみたいです。誤解だったら心から謝罪しますから。志保先輩が何処にいるのか確かめたい!」と、強く言った。
そこまで言われると、佐伯も祐二も受け入れるしかない。互いに顔を見合わせると、口をぎゅっと閉じて頷いた。
「遅くまでありがとう。じゃあ、私たちは帰りますね」
水野は山里に礼を言って、みんなも頭を下げながら部屋を出て行こうとした。
「あの、ちょっと待ってください」
山里は声をかけると、急いで机の引き出しから何かを取り出す。
「これ」と言って祐二に手渡したのは、手のひらに乗るサイズのボイスレコーダー。
「これ、使ってください。記録になると思うんで」と言う山里。
その時、ふと祐二が「岬さんにも渡した?」と訊ねる。
「いえ、岬さんは仕事でも使うから自分で持っているらしくて。俺のはいらないと言ってました」
祐二は水野の顔を見ると、二人が同じ事を考えているのが分かる。
「菅沼さんの話を岬さんは録音したかも」と、同時に言ってしまって、さらに焦りは増した。
「とにかく、今日はこれで。山里さんにはまた連絡させてもらいますので」
そう言うと、水野は玄関に向かった。
佐伯の車に乗り込んで、祐二は深いため息を吐く。
美乃利も、この先起こる事が良くない気がして、陰鬱とした空気に包まれていた。
「明日の夜、もう一度菅沼さんの部屋に行きましょう。そして、全てを話してもらおう」
水野が覚悟を決めた声で言うと、一層車の中の空気は重いものとなった。
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