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対峙の時
しおりを挟む翌日、仕事を切り上げた祐二が水野と向かったのは、菅沼のいる社員寮。
佐伯は仕事で来られずに、美乃利と祐二と水野の3人で出向くと、菅沼は部屋で待っていてくれた。
「何度も押し掛けてすみません」と謝る祐二に、どこか憂いた表情の菅沼は「いいえ」と首を振った。ドアを開けて顔を見た瞬間、昨夜の菅沼とは違う雰囲気が感じられて、祐二はあの話を切り出すのを躊躇った。
ダイニングテーブルについた4人は、菅沼以外緊張した面持ちで座ったまま。水野は祐二の顔をチラッと見ると、第一声で「心中事件はお母さんが起こしたと言われてますが、あれは違いますよね」と菅沼の顔を見て言った。
祐二と美乃利はドキリとしながらも、菅沼の方に視線を送る。
「…..どうしてそんな事を」と、小さな声で言う菅沼に、水野は「押入れのラクガキ」と一言だけ言った。
その時、あからさまに菅沼の顔つきが変わって、自分の胸を手で押さえると苦しそうな表情をする。
「あの家で、日常的に暴力を受けていたのは聞いていました。だから、子供だったあなたがあの言葉を書いた気持ちも分かります。ただ、お母さんも同じように暴力を振るわれていたのに、どうしてあいつら、と二人を指したのかが分からない」
水野は静かな口調で菅沼に問いかける。
胸を押さえたまま水野の言葉を聞いていたが、そこで顔を上げた菅沼は、不敵な笑みを浮かべると鼻からフッと息を吐いた。
祐二も美乃利も、じっと菅沼の表情に釘付けとなり、固唾を飲むと何か言い出すのを待つ。
「あの男を止められなかった母に、私は絶望したんです。だから…..」
菅沼がそう言って立ち上がると、祐二は一気に緊張してきた。話をはぐらかそうとしている気もするし、本当にそれだけの様な気もする。が、水野はじっと菅沼から目を離さずに見つめたまま。
「まだ聞きたい事って、そんな事ですか。これ以上話すことはありませんよ。それに、私の家族の話と岬さんの失踪は関係ないと思いますが」
そう言い切ると、菅沼はキッチンに行き水を汲んでゴクリと飲み干した。
僅かだが、コップを持つ手が震えている事を見逃さない水野は、「岬さんが撮影したカメラが出てきました。私たち、昨夜それを巻き戻して観たんですよ」と話す。
「えっ」と、振り返った菅沼の顔つきは、誰が見ても分かるように青ざめていた。
「それから、、、音声も」
水野は小さな声でそう言った。
祐二は驚いて水野の顔を見る。
音声というのは何だ?ボイスレコーダーは見ていないし、何を言い出すのかと心配になる。
「どこに隠してたのよ」と、菅沼の呟きが聞こえて、今度は菅沼の顔を見た祐二。何だか訳が分からずに二人の顔を交互に見るしか出来ないでいる。
「話してもらえませんか?岬さんが居なくなった原因は、あなたの家と事件が関係しているんですよね。私たちは、一緒に動画を撮っていた人にも話を聞いていますし、もしも警察が動けば、彼のところに言って話を聞くはずです。そうしたら、あなたの事も….」
水野は立ち上がると、菅沼に向かって言った。その言葉には信憑性があって、一同は黙ったまま納得するしかない。そして、菅沼も今度は天井を見上げると、脱力した様に腕をぶらりと落として立ち尽くす。
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