物言わぬ家

itti(イッチ)

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轍(わだち)

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 菅沼の自殺未遂から二日後、美乃利は後ろ髪を引かれる思いで北海道に帰って行った。
 岬の両親が、岬の退職の手続きをしに東京へ来るといい、警察から何らかの事情が語られたのだと思う。
だが、詳細は美乃利には伏されたままで、とにかくありがとうと、両親から労いの言葉を受け取った。電話口からは深い悲しみが伝わって来る声色で、美乃利は何かを察した様だ。


 本当に、お世話になってしまって、と水野の手を握り締めて美乃利は半べそをかいた。
 飛行場迄見送ると云ったが、これ以上世話になってはいけないと思ったのか、祐二と水野を前にして、電車の改札口で深々と頭を下げながら、美乃利は荷物を持つと改札を抜ける。
一度だけ振り返って、祐二と水野に手を振ったが、その後は背を向けて振り返らずに重い足取りでホームに消えて行った。

「なんか、心残りはあるけどさ、でも、これ以上は美乃利ちゃんには重荷になるでしょ。あんな光景を目の当たりにしただけでも、十分トラウマものだよ」
 
「そうですね、僕ですら瞼の奥にへばりついて離れない光景ですよ。まあ、命を落とさなかったのが幸いですけど、あんな風に血を流す人を見たのも初めてだし」

「私だってそうだよ。あ、でも昔、交通事故の現場は見た事あるかな」

「それって流血ものでしたか?」

「.....んー、額を少し切ったくらいか。それでも、今でも覚えているんだから、ああいう光景は脳裏の奥深くにも残るって事だよね」

「そうですね。......ところで、午後からは仕事に戻らないといけませんね」

「.....、ああ、この一週間ばかり、定時で帰っていたからね、多分山の様に仕事は待ってるね」

「じゃあ、お昼は精をつける物食べておかないと」

「今日中に終わらせたいね」

「.....まあ、無理でしょうけど。先ずは腹ごしらえに行きましょう」

「うん」



 頭を切り替えて、祐二と水野は溜まった仕事をこなすと、もう日付も跨いでしまっていた。
「水野さんを送って、僕もタクシーで帰ります」
 机の上のパソコンの電源をおとして、水野の方を見ると祐二は言った。
 水野も、はぁ~っと溜め息を吐くと、祐二の方に顔を向けてありがとう、と頷く。

 大通りに出て、タクシーを待つ間に、ポツリと水野が呟く。
「岬さん、結局どうだったんだろう。ニュースになっていないという事は、事件にされなかったのかなぁ。ご両親からの報告も美乃利さんには無かったんでしょ?」

「そうですね、何も聞いていないみたいです。なんか、こちらから訊ねるのも気が引けて」
 話をすれば記憶を呼び起こしそうで、祐二も美乃利に連絡はし辛かった。
「そういえば、山里くんには?」
「.....取り敢えず、菅沼さんの件は報告しましたが、岬さんの事については分からないままです。なんか、警察が話しを聞きに来たって言ってましたが」

 水野は、やっぱりね、と小さく呟くと「私たち、ちょっと違う方向を見ていたかもしれない。車輪の溝はひとつじゃないのよ」と言い出した。
 その言葉に、え?と首を捻って横顔を見たが、大きく手をあげて水野がタクシーを止めたので、何も訊けないまま車に乗り込む事になる。

 車中での水野は、うな垂れたままやけに静かで、祐二も話しかけるのがはばかられた。疲れているだろうし、自分もこれ以上は頭を使いたくないと、そう思ったらいつの間にか瞼も重く垂れさがる。

 
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